スペイン風多文化結婚雑感
スペインのバルセロナ郊外のカトリック教会。南欧らしくハイビスカスの花が咲き乱れる回廊が美しい。9月某日、若い男女が結婚式を挙げた。夫はニューヨークに住む日系アメリカ人弁護士の次男。妻はバルセロナ出身のスペイン系アメリカ人。2人ともアメリカでバリバリ働いているが、新婦は挙式の場所として、母も結婚式を挙げたバルセロナの教会を選んだ。つまり、日本人の血を引いたアメリカ人とスペイン人の血を引いたアメリカ人の夫婦である。これが、マルチ・カルチャーの移民国家アメリカなのだなぁと感じた。日本やドイツでの結婚式よりも多文化的、国際的である。こうした異文化の融合と統合が、アメリカをダイナミックで強力な国にしてきた。彼らはアイルランド系、イタリア系、ユダヤ系などの出自よりも、「今どういう人間であり、何をしているか、これから何をしようとしているのか」の方を重視する。
「ゼロから始めても絶対に目標を達成できる」という前向きな考え方をアメリカでは「キャン・ドゥー」精神というが、これもアメリカでゼロから生活と事業の基盤を築いた移民魂と関係がある。
披露宴は、教会から車で1時間ほど西へ行った場所にあるレストランで行われた。深い緑に包まれた山荘のような建物である。広い庭でのガーデン・パーティーにアメリカ人、スペイン人、日本人の親戚や友人ら約150人が集まった。友人の多くは、スタートアップ企業の社長、生化学の研究者、ビジネススクールの教授など、ビジネスや学問の最先端で活躍する人々だ。
立食パーティーでは、カタルーニャ名物イベリコ豚の生ハムを、パンに載せた前菜が出された。独特の濃い味が赤ワインによくマッチする。スペイン料理に欠かせない、海産物、野菜、肉と米を大きなフライパンの上で炒めたパエリアもふるまわれた。
招待客たちは、テーブルに着席してのディナーの後、広間に移って朝4時まで踊り続けた。新郎新婦たちは幸せそうだった。
教会での結婚式で印象に残ったことがある。神父が新郎新婦と会衆に対して、カタルーニャ語と英語で説教を行った。彼は「結婚は忍耐(ペイシェンス)ですよ。忍耐、忍耐、忍耐、忍耐…」と何度も繰り返した。30回くらいこの言葉を使ったので、会衆から笑いの声がもれたほどだった。
すでに結婚している(あるいは以前結婚していた)多くの会衆も心の中で、「神父様の言うことはもっともだ」と思っていたのかもしれない。
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
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