通信販売の世界では当たり前になっているが、物品の購入やチケットの申し込みなどにインターネットが広く利用されている。これは保険の世界でも決して例外ではなく、インターネットを利用して直接保険商品を購入できる範囲が広がってきている。その中で、保険証券の発行を省略し、ペーパーレスとなることを条件に保険料の割引を行う商品も次第に現れている。旧来からの伝統的な保険の感覚が染み付いてしまっている者にとっては、保険証券の発行を省略することに戸惑いを感じるかもしれない。
そもそも保険証券とは、保険契約の成立の有無とその内容を証明するためのもの(証券)であって、保険会社が作成して署名のうえ保険契約者に交付するものである。ただし、商法上では保険契約は、保険会社と保険契約者となるべき者との間の合意によって成立する契約(諾成契約)であり、契約の成立には何らの方式(たとえば保険申込書による申し込みといったこと)を必要としない契約(不要式契約)ということになっている。したがって、保険証券を発行することが、保険契約を成立させるための要件でもないし、効力を発生させるための要件でもない。ただ一方で、商法では保険契約成立後に保険契約者から請求があった場合には、保険証券を発行しなければならないということになっている。
また、「証券」というものを有価証券(財産に関する権利を表すもの)と証拠証券(契約の成立や契約内容を表すもの)という分類をした場合には、記名式の保険証券は証拠証券とされている。保険証券は、有価証券のように提示すればいつでも(すなわち保険事故の有無にかかわらず)金銭に換えられることはないし、その一方で保険事故が発生して保険金を受け取るときには、保険証が必ずしも必要というわけではなく、また紛失してしまった場合など比較的に再発行できるという理由である。
話を元に戻せば、保険証券の発行を省略するといっても、保険契約者から請求があった場合には、当然保険会社は保険証券を発行することになるので、法解釈とか販売制度などが変わったという訳ではないのである。いずれにしても、保険会社にとってみれば、保険契約者全員に保険証券を発行するのか、実際に請求のあった保険契約者のみに発行するのかでは、コスト面はもちろんのこと事務リスクの面でもかなりの差があることは確かである。今後もこのような方式の商品が広まっていくのであろう。
(2006年2月17日 日刊1面)