<05/11/10> 自殺免責 |
生命保険は、保険事故(人の生死)が生じたとき、保険者に保険金支払の義務が生じるとしている。通常、保険事故の発生原因は問われないとするのが原則であるが、保険契約の本質を構成する偶然性、射倖性、あるいは制度のもつ公益性に鑑み、商法では規定を設けて、「被保険者の自殺による死亡」場合においては「保険者は保険金額を支払う責に任ぜず」とする(商法第680条第1項)。すなわち、債務者が負っている法律上の責任を法が部分的に免除する「法定免責事由」がこれである。 被保険者の自殺による死亡を免責とする趣旨は、これが生命保険契約の射倖契約性から要請される当事者間の信義則に反するばかりか、保険事故の要素をなす偶然性をも欠くものであるからである。また、契約自体が不当な保険金利得目的のための手段ととして利用されることを防ぐためでもある。なお、普通保険約款はかかる商法規定を緩和し、一定期間(現在は2年ないし3年とするものが多い)経過後の自殺については保険金を支払うこととしている。 商法は被保険者の自殺につき全保険期間にわたって免責としているが、普通保険約款はこれを緩和し、「責任開始期の属する日からその日を含めて2年ないし3年以内の自殺」についてのみ免責としている。これは、健全な保険団体を維持していくうえから、すべての自殺を免責とするのではなく、あらかじめ自殺を計画して保険契約を締結し、計画どおりにそれを実行するような、いわばモラルリスク的な自殺を排除すれば足りるとする考え方によるものである。そして、保険金取得目的のための自殺であるか否かの立証が極めて困難であることから、その意思に関わりなく免責期間以内の自殺はすべて免責とするものである。したがって、責任が開始されてより免責期間経過した後の自殺については、保険金取得の意思はなかったものとみなし、保険金を支払うとするものである。 最判平16年3月25日においても「被保険者の自殺は、免責期間経過した後であるから、免責期間内自殺免責特約により、その自殺に関し犯罪行為などが介在し、自殺による保険金支払を認めることが公序良俗に違反する虞があるなどの特別の事情ある場合は格別として、・・・自殺の動機、目的が保険金の取得にあることが認められるときであっても、免責の対象としない旨の約定と解するのが相当である」とする。 (2005年10月24日 日刊 3面)
保険用語研究会
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