<06/03/20> 受託者の裁量
「スペシャル・ニーズ・信託の活用」に関連して

 信託は委託者・受託者・受益者の三者から構成されている。信託と言うと商事信託のみを指す日本の事情とは異なり、欧米、特に英米では私的な民事信託が根強い法律関係を形成している。
 その中で、受託者の役割は非常に重要である。もとより商事信託でも受託者の機能に信頼を寄せて信託をなしており、その点に関しては私的な民事信託と変わりないが、信託は単純に運用をプロフェッショナルに任せるというだけのものではなく受託者は注意深く受益者を観察し、その受益者のために何が必要で何が求められているのか、そして、受益者への受益の行為が委託者の意思にかなったものであるのかを常に考えて信託の運営を行うことが求められている。
 そのような中で、受託者の裁量(権)はもっと注目されていいものである。
ちなみに、現在日本で行われている信託で受託者の裁量権が話題になることはない。そもそも、信託銀行を中心とした信託行為の中で受託者裁量が活用される余地はまず全くないのである。
 受託者の裁量権は受益者のためになるということであれば、信託行為を一定の範囲内で受託者がコントロールすることである。例えば、ここに2人の子供がいたとしよう。親はこの2人の子供を残して死亡したとする。その後、遺言を根拠として遺産をファンドとした信託が設定され、受託者をAとし受益者は2人の子供であるとする。そのとき、一方の子供が重い病気に罹った場合、受託者に裁量権がなければそのまま2人の養育のための費用を公平にそしていつものように分けるであろうが、このような喫緊の事態では受託者はその裁量権を用いてある月の給付に差を設けて一方の子供に多くのお金を使うこともできる。
 また、一方の子供が長じて不幸な結婚をし、結果的に経済的に困窮し、他方は極めて幸福な生活を送っているとした場合などは、不幸な一方の子供のみに信託資金を与えることができる。
 また、浪費癖のある受益者に金銭を与えるよりは生活必需品の交付がより効果的であると考えれば、これも可能である。これも受託者が正確に受益者を観察し、その性癖も含めて理解をしたうえで裁量を行うのである。
 このように信託目的に沿った一定範囲内ではあるが受託者は現実的な解決を自らの裁量で行うことが本来の信託あり方である。
(2006年03月09日 日刊 4面) 保険用語研究会