<05/08/22> 信託法の改正 |
日本の信託法は信託業法と抱き合わせで大正12年1月1日に施行されたものである。その後、80年以上にもわたり大きな変更もなく星霜を重ねたが、今般これを全面改訂するとこになった(法制審議会信託法部会「信託法改正要綱試案」)。 大正期日本には多数の泡沫「信託会社」が誕生したため行政当局としては信託を行う事業者を取り締まる法律の制定に迫られていた。従って、形式こそ一般法たる信託法が先行し信託業法がそれを助ける形にはなっているが、実質的には規制手段たる信託業法の後を追うように一般法たる信託法が誕生したのである。しかし、その信託業法も第二次世界大戦後信託会社が銀行との合併を行い結果的にいわゆる「兼営法」を法的背景とする信託銀行による信託業務が展開し、この段階で信託業法は形骸化してしまった。 信託法そのものについては信託という制度が英米法を起源にしているためその自在な法的実態はローマ法起源の大陸法にはなじめず、大陸法を継受した日本の民法典の下では信託法が記述する権利が債権であるのか物権であるのかの問題を惹起し、その結果信託制度の法的性格について80年に亘る論争が発生した。日本の法体系ではある権利が発生するとそれが「物」なのか「債」かの選択を迫られるのである。ちなみに今回の信託法の改正要綱試案では諾性契約であることが明確化され、債権であることが明確となった。 日本の信託は戦後信託銀行による独占的な業務範囲となっているために、基本的には銀行業務との兼営法によって業務を行っているが、昨年信託業法の全面改正があり、日本の信託は新たな局面に差しかかった、と言える。 通常は、信託法のような一般法ができてから信託業法のような業務範囲などを定める法律ができるのがものであるが、今回も制定時と同じように、新信託業法のあとに新信託法が後を追う形となっている。従って、今般の信託法の全面改正をもって再度信託業法の改定も企図されており、日本の信託基本法については更に議論が必要になることは間違いない。 更に、信託が真の需要を生むためには、信託制度、特に民事信託についての国民的なコンセンサスを得る必要があることも忘れてはならない。信託の活用の道は投資信託やその道のプロが倒産隔離にためだけに用いるような商事信託だけではない。民事信託が目指す本来の信託は個人が自己の財産をこれはと言う人に託し自らの生死を越えて自らの意志を成就させるための極めて優れた法的装置である。この点は日本の信託実務が等閑視してきた分野であり、今後本来の議論がなされるべき分野である。 今回の新信託法は次期通常国会を目指して制定される予定である。 (「信託法改正要綱試案」に関する意見募集にてパブリック・コメント募集中
http://www.moj.go.jp/PUBLIC/MINJI60/pub_minji60.html) (2005年8月8日日刊 4面)
保険用語研究会 |
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