<06/03/16> スペシャル・ニーズ・トラスツ
「スペシャル・ニーズ・信託の活用」に関連して

特殊な場合を除いて、米国では障害を持った子供が2000ドルを超えた資産を相続した場合、SSI(Supplemental Security Income)やメディケイドの手当てを受けることができなくなる。その際に考えられるのがスペシャル・ニーズ・トラスツ(Special Needs Trusts or Supplemental Needs Trusts)である。この制度は特に裕福というわけでない人たちに対してメディケイドやSSIの給付を受けつつ、資産の形成や実質的に遺産を相続することと同じ効果の発生を可能とするよい制度である。この信託の資産から生命保険の保険料も支払うことができる。
 この信託は、「家族型」の設定、「プール型」への資金の投入、そして例外型タイプAという3つの代表的なものがある。
【家族型】
 最も一般的なスペシャル・ニーズ・トラスツは家族型(ファミリータイプ)と呼ばれるものである。これは障害者の親によって組成されるものである。遺言によりこの信託に資金を投入することも行われる。またこのトラストに資金を入れるために生命保険が購入されることもある。
 多くの場合、両親は、資金や家を障害のある子供(受益者)に与える遺言書をしたため、障害者の生存中は彼に、そして、その受益者が死亡した場合には残余財産はそのほかの家族に行くことになる。また、遺言だけでなく、両親は彼らの財産を生存中に信託を設定することもある。この場合の受益者は障害を持った子供である。この場合には親の死亡を待つことなく、信託は即時に効力を持つ。これは両親のみならず、そのほかの親族がこの信託に資産を投下することができる。
 家族型スペシャル・ニーズ・トラスツのキーポイントはこの信託で衣食住の基本的なものを賄うということをしてはならないというものである。これらはSSIやメディケア法では基本的なニーズと言われているものであり、これをこの信託財産から支払ってはならない。障害者が無料の住居や食料・衣服の提供を家族を含め何らかの信託から受けた場合、政府からの給付は削減されるか無くなることになる。
 しかし、例えば障害者に対して家をレンタルするつもりで家を購入する、というためにはこの信託を利用することは可能である。また、この信託で家の修繕、公共料金や税金の支払をすることもできる。また、このお金で旅行やキャンプをしたり、スポーツシューズなどのスポーツ用品の購入も可能である。またメディケイドでカバーしていない医療を受けたときの医療費用の支払(例えばビタミン剤の購入などもOK)である。また、これで葬儀や埋葬の費用も賄える。このように多くのものの費用を賄うことができるが、ただ受託者が受益者のためになると思わない限りいかなるものにも消費してはならない。
 一般的に両親が存命中は彼らが受託者になる。彼らが亡くなった場合に、後続の受託者が任務につく。ときとして銀行を受託者に選ぶ場合があるが、銀行はコストが高くつくのみならず、銀行は障害者のその後の個別のニーズを継続的にトラックすることはしないのであまり好ましい受託者ではないようだ。従って、責任ある家族の一員が親の死亡後の面倒をみることが望ましいとされている。
 単に、生活上のハードの整備だけではなく、法的問題の解決に対しても信託資金から支払うことができる。社会保障やメディケイド、あるいは政府から通常受けられるサービスをある人が受けていない場合の交渉のための弁護士費用など、ともかく生活にかかわる費用を賄うことができる。このようなタイプの援助がなければ、このような人々は悪くするとホームレスにもなりかねない。
 このような援助を家族型のスペシャル・ニーズ・トラスツは達成することができる。
この信託資金の拠出者は両親はもとより親類家族ができるが、唯一、障害者本人はここに資金を拠出することはできない。従って、障害者自らに稼得能力がある場合には問題が生じる。
【プール型】
 プール型の資金拠出者は誰でもよい、家族型と異なるのは障害者本人も資金拠出が可能であるということである。
 信託の組成は非営利組織を通して行うことができる。例えばミシガン州には現在5つのプール型の信託がある。しかし、ミシガンのプール型信託に拠出するときその拠出者がミシガン在住者である必要は無い。
 この信託を運営する非営利組織は税金の準備、資産運用の決定、そして受託者としてのサービスなどあらゆる事柄を行っている。受益者の死亡後は信託財産はその当該信託に残り、他の障害者の援助に使われる。信託財産が政府に没収されることはない。このプール信託に加入するには通常500ドルが必要だが、これが払えない場合は削減される。
 この制度は稼得能力のある障害者がメディケイドやSSIを受けつつ行うことができるという利点がある。すなわち、ある障害者がサブアカウントをこのプール型の信託に設定する。この障害者は稼得能力があるので、稼いだものをそのサブアカウントに入れていけばよいわけである。また障害者の親が遺産をそのサブアカウントに入れることを決めていても構わない。
裁判所の認定による信託(例外的タイプA信託)
 これは裁判所が認定する信託である。これはタイプAとよばれる特殊な信託である。これは特殊な状況、たとえば、障害者が遺産を相続した場合や裁判上の解決による金銭を受領したような場合である。すなわち、障害者が実際に金銭を得てしまったことによって、両親が通常に組成したスペシャル・ニーズ・トラスツに金銭を投入することができなくなるのである。
 この場合の問題を解決するためにタイプAがある。この信託は障害者が死亡したとき、障害者が政府から受けたいかなる医療的な補助に関してもその信託の残額から支払うことに特徴がある。実際上は、使用されなかった信託資金は政府に行くといってよい。これは何らかの財産が残ったとき払い戻す仕組みのメディケアとおおきくこことなる部分である。
この信託を設定することができる者は、
・ 障害者の親
・ 障害者の祖父・祖母
・ 法定後見人
・ 裁判所
であり、障害者は65歳以下でなければならない。障害者という定義も社会保障のメディカルスタンダードに合致する者のみを指しており、そのスタンダードに合致しない場合はこの信託の設定をすることはできない。
 例外型タイプAという名称は連邦法§1369p(d)(4)(A)の排除規定A項によっている。
 このようにスペシャル・ニーズ・トラスツは障害をもつ子供を持つ親がメディケイドやSSIを受けつつ快適な生活が送れるようにという希望をかなえるものである。
(2006年03月09日 日刊 4面) 保険用語研究会