阪神・淡路大震災から今年で10年が経過したが、この地震直後、何十人という数のイギリス人がロンドンおよび日本の周辺から現地の損害調査に入っていたことをご存知だろうか?
彼らこそ本書の主役であるロス・アジャスターだったのである。この震災のことは本書にも取り上げられているが、そのほか毎年のようにカリブ海を襲うハリケーンの損害調査にも多くが海を越えて現地に飛んでいる。カリブのリゾートというイメージとは程遠い荒れ果てたホテルを目の当たりにし、彼らはしばしば水道、電気も途絶えた状態で仕事を開始するのである。
ごく最近では、スマトラ沖地震津波損害の調査にも動員されている。
このように、被害者(そして保険会社)にとって深刻な災害は「災難とは商売と見つけたり」(本書第19章)となるのがロス・アジャスターの宿命なのである。
本書は『イギリス・ロス・アジャスターの歴史』全3巻の最終巻で、1970年~1995年という現代につながる時代を扱っている。
過去の2巻が文字どおり歴史の世界を描いていたのに対し、本書はロス・アジャスターが合併・買収の波にもまれ、保険会社のコスト削減要求に直面し、「嵐に耐えて」乗り越えてきた時代を描いており、問題はそのまま今の時代に通じるものである。前2巻の刊行からすでに10年余りがたち、前2巻のことをご存知ない、あるいはロス・アジャスターについてあまりなじみのない方も多いかもしれない。
往年のアジャスター協会長が、冗談めかして言った言葉を借りれば、ロス・アジャスターとは「クレーマント(請求者)を相手にその求めるものの半分を与え、しかももらえたはずの倍は取ったぞと思わせてしまう手合いである」。
グローバリゼーションが叫ばれる世界にあって、イギリス人ロス・アジャスターは今やインターナショナル・ロス・アジャスターとなり世界中を駆け巡っている。
彼らが保険会社、ブローカー、保険契約者との間で問題をうまく解決できるかどうかは、単に海の向こうのことではなく、日本国内にも通じる問題となっている。
私たちがロス・アジャスターと接する機会は、前2巻が出た時代から飛躍的に増えており、彼らについて理解を深めることは、保険会社のみならず、契約者である企業の人たちにとっても、保険損害を円滑に解決する上で、極めて有意義である。
保険会社の損害部門にある人々にとっては、この職業について書かれた数少ない書物として貴重な存在であるだけでなく、この世界に接点があるそのほかの人々にとっても示唆に富む内容のある読み物と言える。