本書の目的は、ERM経営を構築のための方法論をひもとくことではなく、個別保険会社が保険という事業構造の特性と自社の契約ポートフォリオの特徴等を踏まえて、何を守るべきかを確認し、保険会社が最適な意思決定にいたるべく、いかなる努力をおこなってきたかという道筋を確認することにある。その道筋を一覧的かつ体系的にまとめることが、今後進むべき道が明らかになる。
いかなるERMも事業構造の特質を踏まえたビジネスモデルから始まるべきであり、企業が何を守って何を捨てるのかということから出発する。したがってERM経営は、企業の数だけ存在するものであり、典型的なERM経営というものが存在するわけではない。またそれを形式だけ導入しても意味がない。
以上のようなことから、本書は保険経営の意思決定に何らかのかたちで関わる方々ばかりでなく、他の金融機関および事業会社でERM経営の構築のために奮闘されている諸兄や、経営戦略としてのERM経営に関心をもっておられる方々にとっても一読の価値がある。
本書の主な内容
第1章 保険 ERM態勢のあり方
1.経営にリスク・ガバナンスの強化を促す保険ERM
2.保険ERMの具体的に大事な点は何か?
3.ERMのピットホール
第2章 欧米の保険会社でのERM進展
1.ERM進展の背景:グローバルストレスと金融・保険規制の中で
2.リスク管理の枠組みとガバナンス構造
3.リスク文化とリスクアペタイト
4.個別リスク管理
5.ストレステスト
7.今後の展望
第3章 保険行政とERM
1.保険行政とERM
2.ERM重視の背景
3.行政によるERM推進のメリットとデメリット
第4章 生保の主要リスクとERM
1.生命保険会社の主要リスク
2.経済価値ベース・会計ベースによる管理
3.ERMの定義と位置づけ
4.第一生命におけるERMの取り組み(戦略)
5.第一生命におけるERMの取り組み(組織)
6.第一生命におけるERMの取り組み(プロセス)
7.ERM推進における課題
8.小括
第5章 損害保険会社のERM
1.はじめに 日本の損害保険会社のERMの発展
2.ERMのコンセプト
3.ERMの経営への活用 「守り」の側面
4.ERMの経営への活用 「攻め」の側面
5.ERMの基盤
6.小括
第6章 バンカシュランスの商品開発とERM
1.バンカシュランス商品の特徴
2.変額年金商品の特徴
3.変額年金商品の商品開発とリスク管理の実務
4.変額年金商品のERMフレームワークにおける管理
5.小括
第7章 ストレステストとストレスシナリオ
1.はじめに
2.ERMとストレステスト
3.ストレステストの手順と手法
4.経営対応の決定と実務上の論点―保険会社特有の検討課題
5.リバース・ストレステストの実務
6.小括
第8章 ERMと経済価値評価
1.ERM最大の難関?
2.ある研究会での議論
3.金融商品の原価を考える
4.会計価値と経済価値
5.パフォーマンス評価との整合性
6.経済価値評価の課題とその克服に向けて
第9章 格付会社におけるERM評価
1.S&PにおけるERM評価の進展
2.保険会社の格付基準
3.ERMの評価規準
4.S&Pによる本邦保険会社のERM評価
終章 ERMの意義とチャレンジ