【書評】
今年5月8日、国会で改正生協法が成立した。この改正案により共済事業に対する規制が強化される。言い換えれば、保険に対する規制との一元化の方向が示されたといえる。
しかし、この一元的規制の方向への示唆は決して共済と保険の理論的整合性に基づくものではない。むしろ、その背景には、国内保険業界と米国を核とする欧米の要求という政治的な要因があったと指摘されている。
共済をめぐるこのような状況に先立ち、1990年代に現れた無認可共済問題に端を発し、その規制のため2005年に保険業法が改定された。この保険業法の改定がもたらす問題の提起を目的として、押尾直志監修、共済研究会編『共済事業と日本社会―共済規制はなにをもたらすか―』が発刊された。
本書の内容の概要は以下のとおりである。
1.共済規制の経過と内容
改定保険業法による共済規制の問題を理論的かつ歴史的に分析している。
2.自治組織としての共済団体がいかに組合員の生活に不可欠な役割を果たしているかを示し、また、改定保険業法に対する問題提起を行っている。
資料および解説
保険業法改正問題の経過および背景資料が付されている。
以上のように、理論、実情、そして資料で構成されており、理論はもちろんのこと、その実情は豊富な事例を取り上げている。また、最後の資料も実に充実したものである。
本書の監修者、押尾直志教授は「本書で紹介されている共済団体の中には国の援助・保護もなく、また、保険会社が事業対象として決して取り組むことのない内容の経済的保障について、同じ境遇に置かれた人たちがわずかな掛け金を出し合い、相互に生活を支える目的でやむにやまれず実施している互助制度も存在している。こうした団体がいかなる目的で組織されたのか、また、組合員がいかに共済を生活保障のよりどころとして支えあっているかを直視することなく保険会社と同じ法律のもとに一定の規制が課されようとしている事実を多くの国民に知ってもらいたい」と訴えている。
本書は、共済(協同組合保険)は協同組合の価値が盛り込まれた保険であって、一般の保険とは明らかに異なる。このような意味で、共済と保険の技術性にのみ注目した形がい的な比較にとどまらず、その制度の持つ歴史性をも考慮する必要があることを示唆している。
評者: 慶應義塾大学名誉教授 前川 寛
目次
Ⅰ 共済規制の経過と内容
1.共済事業の今日的意義と法規制問題(押尾直志・明治大学)
2.日米の保険マーケット拡大と共済規制(本間照光・青山学院大学)
3.共済事業の歴史と共済規制の歴史(坂井幸二郎・日本共済協会)
4.共済法の現状と課題(松崎良・東日本国際大学)
Ⅱ 共済事業の果たしている役割と課題
1.共済事業の全体像(相馬健次)
2.協同組合共済の果たしている役割と課題(吉田均・日本共済協会)
3.共済の経営問題と法規制(佐々木憲文・日本総研コンサルティング)
4.自主共済の果たしている役割と課題(共済の今日と未来を考える懇話会)
5.労働組合共済の果たしている役割と課題(長谷川栄・全国労働組合共済連合会)
6.無認可共済の議論と連合の取り組み(木村裕士・日本労働組合総連合会)
7.PTAの「安全互助会」の果たしている役割と課題(栗原清昭・日本PTA全国協議会共済制度検討委員会)
8. 知的障害者の「互助会」の果たしている役割と課題(福田和臣・全国知的障害者互助会連絡協議会)
9.労協連のCC共済の果たしている役割と課題(岡安喜三郎・協同総合研究所)
10.ヨーロッパにおける共済組織の位置づけと現状(石塚秀雄・非営利・協同総合研究所いのちとくらし)
資料および解説
保険業法改正問題の経過と背景資料