「共済」という言葉を聞いて、ある人は保険と同じものと思い、またある人は「たすけあい」の募金のようなものを想像するかもしれません。
本書は共済について、保険との対比で両者の共通性と相違性を理論的・歴史的アプローチから探り、「共済」とはそもそも何であるかその正体に迫ります。保険とともに私たちの生活の安全を支える金融商品としての役割を果たしている共済について、可能な限りわかりやすく解説して、サービスの全体像を明らかにします。
はじめに共済全般について概観し、「共済」の用語の意味、共済を呼称する団体・組織と活動内容、根拠法などについて紹介します。
続いて、主に共済の機能について理論的アプローチにより考察します。共済が保険の理論と同じ前提でかかわっていることを踏まえて、保険の契約に関して保険法が規律するさまざまな規制やルール、契約者保護に係る定めについて、また価格理論や需要理論などの保険理論について、さらにはリスクと保険の考え方などを総合的に分析し、共済の仕組みや諸機能についての基礎的な知識を提供します。一方、民間保険の市場における規律性・効率性の視点から見たときに、共済保険が、民間保険とは内容や程度において異なる特徴があること指摘した上で、民間保険との相違性や特質について解説します。また、共済の組織論・運動論的側面からも、共済と保険との違いについて考えます。
さらに、歴史的アプローチから、戦後に誕生した協同組合保険が生活の中で認知されるに至る揺籃期における共済に焦点を当て、当時の保険研究者たちによる共済と保険に関する論考を取り上げて学説史的整理を試みます。これに絡めて保険・共済ともに親和性のある「たすけあい」の理念・機能が商品にどう組み込まれてどんな意味合い有するのかについて、保険と共済での違いを論じます。
本書の解説を通して共済の意義や共済商品の特徴を理解することより、家計のロスファイナンスの手段として、共済や保険を生活の中で上手に活用するヒントを汲み取ることができます。また、共済に携わる方々にとっては、共済の特徴を深く認識した上で生活者や組合員に向けて広く推進活動を行い、そして独自に発展した日本の共済事業についての理解を深めて、共済のこれからに向けての役割を考えていくためにも、必読の書籍です。
【主要目次】
序章 課題探索のための三つの道筋と三つの目的
第1章 わかりやすい共済商品とわかりにくい共済組織
1.1 はじめに-生活の中での共済と保険
1.2 共済という言葉について
1.3 戦前における「共済」という言葉
1.4 各種共済団体の紹介
第2章 共済と保険の相違を理論的に考える
2.1 はじめに―保険研究と共済研究
2.2 機能論的理解(1) 保険契約の世界
2.3 機能論的理解(2) リスクと保険の世界
2.4 機能論的な理解から考える共済
2.5 機能論以外のアプローチ
第3章 歴史から学ぶ共済の特質
はじめに
3.1 保険・共済のもつ二面性
3.2 共済との出会いと初期共済に関する学説史
3.3 共済事業の誕生と共済保険研究会の設立
3.4 印南博吉―現実的な眼をもった理想主義者―
3.5 水島一也―産業組織論から水島保険学へ―
3.6 佐波宣平―機能論への純化―
3.7 園乾治―保険を軸とした現実的な理解―
3.8 近藤文二―経済学者としての認識―
3.9 笠原長寿―未来を夢見た理想主義者―
3.10 まとめ
第4章 くらしの中の共済
はじめに
4.1 生協共済研究会の誕生とその背景
4.2 共済と保険の相違を知るために 本書が採用した方法論
4.3 「逆転した方法論」のメリット
4.4 くらしの中で共済がどのように 役立つのか:相違を知る
4.5 くらしの中で共済の存在意義:競争と多様性
4.6 新自由主義の真実 -保険と共済は二項対立的なものなのか?-
◎あとがき/生活と共済・保険に関する参考文献/巻末資料1:協同組合原則/巻末資料2:『ファクトブック2021』(抜粋)/事項索引
【著者紹介】
米 山 高 生(よねやま たかう)
一橋大学大学院経済学研究科単位取得退学。
京都産業大学経営学部を経て2000年4月に一橋大学大学院商学研究科教授。
2017年に一橋大学定年退職(一橋大学名誉教授)後、東京経済大学経営学部教授に着任。
現在、東京経済大学図書館長。
総務省情報通信審議会委員、金融庁金融行政モニター委員(参与)ほか。
全国大学生協共済生活協同組合連合会会長理事。
アジア太平洋リスク保険学会(Asia Pacific Risk and Insurance Association)会長、生活経済学会会長、日本保険・年金リスク学会会長を歴任。「前島密賞」(2022年度)受賞。