2000年代前半に始まった世界的な海運ブームによって、外航船主の裾野が一気に拡大したが、それを支えたのが多数の金融機関の新規参入による「船舶金融」(=シップファイナンス)の成立である。船舶保険の譲渡担保(=インシュアランス・アサインメント)は、世界的にその手法が標準化しているシップファイナンス実務において、船舶に対する抵当権、傭船料債権の譲渡担保と並んで、金融機関の債権保全の基本的なツールのひとつになっている。これは、英国の実務において発達した方式が日本を含む多くの世界の実務家によって採用されたものだ。ところが、わが国の民法には譲渡担保に関する規定がなく、また保険の譲渡担保に関しては国内に判例もなく、さらに日本の保険約款は保険契約の譲渡に関する規定を持たないところから、実務での導入が進む一方で、その法的な位置付けや効力に対する理解が十分であるとは言い難い。本書は、保険会社に勤めこの実務に精通する著者が、船舶保険の譲渡担保の詳細を解説するとともに、周到な研究によってその法的側面の疑問に回答を与えることを試みたものである。外航船主・オペレーター、シップファイナンスに携わる金融機関関係者・法務担当者、保険会社の船舶保険実務担当者にとって有益なだけでなく、保険法・債権法研究家にとっても興味深い内容となっている。
本書の主な内容
序章 実務の概要
①船舶保険 ②船舶保険譲渡担保の実務
第1章 英法におけるInsurance Assignment
①債権の譲渡(Assignment of choses in action) ②1925年財産権法136条による譲渡 ③1906年海上保険法50条による譲渡 ④衡平法による譲渡 ⑤まとめ
第2章 保険金請求権の譲渡担保(日本法)
①物上代位(何故保険金請求権に担保設定を行う必要があるのか) ②保険契約の特殊性 ③何故質ではなく譲渡担保が用いられるのか ④将来債権の譲渡担保(将来の更改契約上の保険金請求権の譲渡担保は有効か) ⑤第三者対抗要件について ⑥異議なき承諾の効果と保険約款上の抗弁 ⑦後順位担保権の設定は可能か(譲渡担保の法的構成) ⑧まとめ
終章 むすびにかえて
参考資料