東西文化の接点・サラエボの味覚
サラエボは、1467年からオスマントルコの支配下で商業都市として栄えた。高い尖塔(ミナレット)を持つイスラム教寺院が次々に建設された。町の中心部のホテル・ヨーロッパの東側には、中世に行商を行った商人たちが無料で泊まることができた宿泊施設キャラバン・サライの跡が残っている。
1878年にサラエボを含むボスニア・ヘルツェゴビナは、オーストリア・ハンガリー帝国に編入された。それ以降、ウィーンに見られるような西欧風の建物が次々に建てられた。このため、サラエボでは西欧文化とイスラム文化が共存している。東西の接点とも言うべきユニークな町だ。町を歩いていると、カトリック教会とイスラム教寺院、トルコ風の木造の建物が並んでいる。
サラエボでは、朝夕に信者たちに祈りの時間を告げる声が、イスラム寺院の尖塔から町に響き渡る。町の人口約30万人のうち80%がイスラム教徒だ。90年代のボスニア内戦のために、セルビア系市民らは、他地域に移住した。
サラエボの旧市街には、トルコのような木造の建物が多い一角がある。ここには、サラエボ名物チェバプチチを出す食堂がずらりと並んでいる。チェバプチチとは、羊の挽肉を長さ5センチ位の棒状に固めたものを、炭火で焼く料理だ(牛肉の場合もある)。これを薄い皮のようなパンに包み、玉ねぎのみじん切りとともに食べる。チェバプチチはドイツでも売られている。しかし、サラエボでは木炭で焼くので、脂が下に落ちて肉がフワフワになり香ばしくなる。ドイツよりもはるかにおいしい。
チェバプチチはイランからトルコを経て、欧州南部にもたらされたという説がある。ボスニア・ヘルツェゴビナの他の地域、クロアチア、セルビア、スロベニア、ブルガリアやルーマニアにもある。
サラエボでは、チェバプチチ10本が10ボスニア・マルク(約800円)で食べられる。私はこれを食べないとサラエボに来た気がしない。ちなみに、イスラム文化の影響か、チェバプチチがある店にはアルコール類は一切ない。
食後に欠かせないのが、ボスニア・コーヒーである。長い柄の付いた小さなカップに入って出てくる。西欧のコーヒーとは違って、ドロッとしたコーヒーの粉がカップの底に残る。コーヒーには、トルコや中東で人気のあるバクラバという甘い菓子が合う。ピスタチオ・ナッツの風味が香ばしい。是非サラエボを訪れて、オリエントの香り漂う独特の食文化を味わってほしい。
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
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