EUの核武装をめぐる議論(上)
最近、時代の大きな変化を示す出来事があった。ドイツのヨシュカ・フィッシャー元外務大臣(緑の党)が「EUは独自の核武装を考えるべきだ」と発言した。フィッシャー氏は昨年12月3日に公表された週刊新聞ツァイトとのインタビューの中で、「プーチン大統領は核兵器の使用をほのめかしながら他国を脅迫している。したがって、EUは核抑止力を持つべきだ。英国とフランスが核兵器を持っているから大丈夫と考えるだけでは十分ではない」と語った。
ドイツなどは米国と核シェアリングを行っており、国内に戦術核兵器を保管している。だが、その保管場所は米軍の基地であり、米国政府が拒否した場合、核兵器が抑止力として役に立たない可能性がある。つまり、核兵器が米国の管理下にある限り、欧州諸国は独自の判断で核兵器を使うことはできない。米国が「欧州のためにロシアとの核戦争に突入するのは御免だ」と考えて、使用を認めない可能性がある。
欧州では、英国とフランスが核兵器を持っている。しかし、万一欧州大戦が起きた場合、英国とフランスが自国の核兵器をロシアに対して使用するという保証はない。これらの国々は、ロシアの核攻撃による報復にさらされる危険があるからだ。このため、フィッシャー氏は、EUが管理する核の傘が必要だと主張しているのだ。
欧州議会のセルゲイ・ラゴディンスキー議員(緑の党・ドイツ人)はフィッシャー氏の発言について、「われわれは世界の現実を直視する必要がある。その現実とは、次の米国大統領選挙後にホワイトハウスに誰が座るのかがわからないこと、さらに、誰が大統領になるかがNATOに大きな影響を与えるということだ。そのことは欧州での核についてもあてはまる」と述べ、EUが核抑止力を持つというオプションをタブー視せずに議論するべきだという姿勢を打ち出した。同議員は「われわれは長年、米国の背中の後ろに隠れていた。しかし、今や欧州人はリーダーシップを取らなくてはならない」と語った。
実際、米国は単独の支援国としては他の国々に大きく水を開けている。2022年1月24日から23年10月31日までにウクライナに対して供与された支援額は2417億9000万ユーロ(38兆6864億円、1ユーロ=160円換算、以下同じ)。そのうち、単独国としての支援額が最も多いのは米国であり、713億8000万ユーロ(11兆4208億円)をウクライナに送った。2位のドイツ(209億6000万ユーロ)の3.4倍である。(つづく)
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
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