ドイツの労働組合は忖度しない(上)
今年のドイツではストが多発している。3月7日には鉄道運転士労働組合(GDL)が35時間にわたりストライキを実施し、全国で列車の運行をまひさせた。GDLのストは、昨年12月以来5回目。ストの理由は、賃金と労働条件をめぐるドイツ鉄道会社(DB)との交渉が暗礁に乗り上げているからだ。GDLは経営側に対し、次のような改善措置を要求している。
①全労働者の月給を555ユーロ(8万8800円、1ユーロ=160円換算)引き上げる②シフトで働く労働者の所定労働時間を週38時間から35時間に減らす。ただし、給料は減らさない③インフレ対策手当として年間3000ユーロ(48万円)の上乗せ―など。
最大の焦点は、シフト労働者の所定労働時間を週38時間から35時間に減らすという要求だ。これは週休3日制の導入を意味する。
現在、ドイツ鉄道は約32万人を雇用している。しかし、慢性的な人手不足に悩まされており、ここ数年列車の遅れが常態化している。DBによると、今年11月の長距離列車ICEとIC(日本の新幹線に相当する)のうち、定刻に目的地に到着したのは52%にすぎなかった。つまり、ドイツで長距離列車に乗った場合、遅延時間が5分以下で目的地に到着するのは、ほぼ半分だ。2~3時間の遅れも珍しくない。
経営側は「シフト労働者を週休3日制に移行させた場合、労働力不足がさらに悪化する」として、DGLの要求を拒否している。
ちなみに、ドイツ最大の産業別労組IGメタルも、鉄鋼部門の労働者の週労働時間を35時間から32時間に減らすことを要求している。週休3日制の要求は、鉄道以外の部門にも広がりつつある。
ストライキがごくまれな日本とは異なり、ドイツの労働組合はしばしばストライキを実施する。列車の運転士に限らず、市電・バスの運転手、空港管制官、航空会社のパイロット、郵便会社の社員らも毎年のようにストライキを行う。日本人の私の目から見ると、「よく客が我慢しているな」と感心させられる。ドイツはもともと、日本に比べるとサービスの水準が低いので、ストライキによって不便が生じても我慢する人が多い。
ドイツの労働組合の影響力の強さ、組織力は日本の比ではない。同国には産業別労働組合と、企業ごとの労働組合(事業所評議会)の2種類がある。600万人近い組合員を抱えるドイツ労働組合連盟(DGB)には、八つの産業別労組が加盟している。これらの労組の代表はメディアに対しても事あるごとに発言する。
(つづく)
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
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