この著作を読んで生命保険実務講座に出ていた“生保はセールス”の一言を思い出した。生命保険が対象とするのは基本的に人の命であり、損保のように多様なリスクをカバーするものではない。したがって、リスクを分析してそのリスクの軽減を図るものではなく、商品としては単純である。そこで“セールス”の出番となってくる。著者は生保業界で幾多の試練を経てセールスの達人になるべく努力を重ねてきたが、本書はその経験を明るく披露したものである。
たとえば、著者は“プラス思考”と言って、他力本願で人の影響や力を借りることを勧めている。また顧客にとって良い保険とは、これには複数の答がありそれが生命保険商品の特性であると述べている。このほかセールスの隅々まで事細かく著者なりに分析したことを自身の体験と合わせて生き生きと語っている。
著者は二児の母親で子育てにはご苦労があったと思われるが、日常お会いするとそのような苦労話が一切出てこない。意志力が強く何物にも正面から立ち向かうところがある一方、ユーモアがあり人を引き付けるところがある。著作にもそれが表れており、まさに“生保のお母さん”といったふうである。この本はよくあるハウツーものではなく、実体験に基づいた“生保のお母さん”の噛んで含めるような響きを持ったお話となっている。
生保のセールスは“セールス”の究極にあると思う。形のない商品で、しかも人の命の代価を評価することにもつながり、対人折衝が極めてデリケートである。むかしは生保のセールスにはいろいろなゴシップめいた批判もなくはなかったが、これを乗り越えてきたわが国の生保事業には問題点はあるとしても一定の評価を差し上げたい。そして、ここまで生保の発展を支えてきた著者のような営業職員がいることを生保事業に携わる人たちは忘れてはならない。
生保は人口減少のなかでビジネスモデルの見直しを迫られており、いろいろ工夫を凝らして古い体質から脱却しようとしていることが見受けられる。しかし、やはり“生保はセールス”の原点を忘れないで、血の通った営業で顧客に安心感を与えてもらいたい。特にこのたびの東日本大震災では心の痛むことばかりで何とも言いようがないが、保険の有益性を実感してもらい、また感謝されていることは、業界にとってわずかな救いとなっている。生保は今後も“セールスの世界”であり、それをきちんと継続することが基本ではないか。地道な努力の積み重ねでこれからも顧客の信頼をしっかり得ていってほしいものだ。そして、生保セールスに携わる人たちが何か壁に当たったときに、この本のどこかのページを開いてみると必ず示唆に富んだ一言に触れることができると確信している。
(森_公夫 : 元チューリッヒ保険日本支店副支配人。外国損害保険協会(FNLIA)副会長・専務理事、金融審議会委員など歴任。)
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保険毎日新聞連載の名物コラムを単行本化したもの。著者は現役で保険代理業を営むとともに、保険代理店向けメールマガジン「Inswatch」共同編集人をはじめ経済誌、業界紙への記事執筆、大学の講師、講演会活動など保険ジャーナリストとしても活躍中。
<主な内容>
第1章 発想の転換でレベルアップをねらえ
1 精神的に弱い人でも営業はできるのか
2 プラス思考になれない人へ
3 後輩を育てることが自分を成長させる
4 究極の計画性
5 キャラクターの確立
6 顧客の心を動かす
7 信頼は、知識の高さだけでは築けない
8 カンを働かせる
第2章 壁を乗り越える
1 購買心理学に学ぶ
2 踏み込んだクロージングを
3 行き詰まり対策
4 新人は新人らしさを生かせ
5 成功する人の要因と気質
6 中堅へのスタートライン
7 迷いの壁を乗り越えよう
第3章 すぐに活かせる営業ノウハウ
1 見込客の確保維持は地道な努力の繰り返し
2 見込み客の確保と判別
3 効率の良いスケジュールを組む
4 独自のカードを10枚持つ
5 分かりやすい説明とは
6 営業のタイミングをつかもう
7 事務的ミスを少なくする方法とは
8 心に届く、メールの活用法
9 効果の高いアフターサービスとは何か
10 職域マーケットにおける営業のポイント
第4章 失敗しないために、もう一度自分を振り返る
1 保険見直し相談の苦労
2 離れていくファンにご用心!?
3 カウンセリングに学ぶ、生保営業の真髄
4 悪い事例から学ぶ電話営業の心得
5 ミスやクレームを生かす
第5章 迷った時は基本にかえろう
1 こたつでミカン
2 モチベーション維持は永遠のテーマ
3 モチベーションと忍耐
4 コミュニケーションにひと工夫を
5 コミュニケーションにひと工夫を(その2)
6 顧客を好きになるという営業の基本と注意点
7 得意分野を極め、不得意分野には工夫を
8 紹介契約が多い人と少ない人の違いは何か
9 入院直前体験記
10 入院手術体験記
11 春、初心にかえる
12 アフターフォローにこそ対面営業の価値あり