物づくり大国ドイツの危機①
私は1990年以来、34年間にわたって欧州で定点観測を続けているが、ドイツ経済の現在の落ち込み方は相当深刻だ。連邦統計局の1月15日の発表によると、2023年のドイツの実質GDP成長率はマイナス0.3%だった。G7(主要7カ国)の中でマイナス成長はドイツだけである。23年のユーロ圏の平均成長率は+0.5%だったので、欧州経済をけん引する機関車役であるべきドイツが、ユーロ圏全体の成長率を逆に引き下げた。つまり、同国は欧州の「劣等生」の地位に転落したのだ。新興国ブラジルやメキシコにも負けている。その不振ぶりは、英国のエコノミスト誌が23年にドイツを「欧州の病人」と呼んだほどだ。
なぜドイツは「欧州の病人」になったのだろうか。2020年には、ドイツの実質GDPがコロナ・パンデミックによる不況のためにマイナス3.8%という建国以来2番目に大きな減少率を記録した。その後、同国の実質GDPは21年に+3.2%になり、回復基調に乗るかに見えた。しかし、ロシアがウクライナ侵攻を開始すると、ドイツは異常な物価上昇に襲われ、22年の実質GDP成長率は+1.8%にダウンした。23年にはマイナス0.3%に転落した。24年の成長率はわずか0.1%と予想されている。
ドイツなど欧米諸国はウクライナに侵攻したロシアに対して、22年以来さまざまな経済制裁措置を行っている。だが、それにもかかわらず、ロシアの23年の実質GDPは3.6%成長し、ドイツをはじめ全てのG7諸国の成長率を大きく上回ったのは皮肉だ。鳴り物入りで行われた西側の対ロシア経済制裁は、あまり効果を挙げていない。
ドイツがマイナス成長を記録するのは、1948年の建国以来9回目。そのうち5回が、21世紀に入ってから起きている。マイナス成長の頻発は、物づくり大国ドイツが、21世紀に入ってから成長力不足に悩むようになったことを示している。同国経済の金属疲労の兆候である。中国やインドとは対照的である。
ドイツが景気後退に陥った最大の理由は、22年2月のロシアのウクライナ侵攻だ。ドイツは外国から輸入する天然ガス、石炭、原油の大半をロシアに頼っていた。ウクライナ侵攻後は、電力・天然ガスなどエネルギー価格の高騰、原材料の値上がりとサプライチェーンの寸断、国内消費の減退、輸出の不振、金融引き締めによる不動産不況、長年続いた住宅建設ブームが終わったことによる建設業の不振などが、欧州最大の物づくり国家ドイツを襲った。
(つづく)
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
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