銀座書店考
今年6月、1年ぶりに銀座通りをぶらぶらと散歩した。私の足は、銀座四丁目の交差点に近い、緑色の看板を持つ書店の前で止まった。教文館書店は、いまや銀座でただ一つの本屋である。
この書店は1885年(明治18年)に、日本メソジスト監督教会の決議により開かれた。現在でも日本キリスト教文化協会が最大の株主である。創立当初は横浜にあったが、1891年に銀座に移転した。現在の書店には一般の書籍や雑誌も置かれているが、このビルの3階はキリスト教関係の書籍のコーナーになっている。
私が学生だった1980年代には、銀座にはイエナ洋書店などいくつかの書店があり、文化の香りが残っていた。だが、今では銀座の書店は教文館だけである。銀座通りはブランド商品を売る店か、喫茶店やレストランであふれている。歩いていると英語や中国語の会話が頻繁に聞こえるので、「自分は日本ではなく、外国にいるのではないか」という錯覚に襲われる。インバウンド観光客の急増を反映して、教文館書店の1階には雑誌だけではなく、東京の名所絵葉書や寿司をかたどったプラスチック製の玩具など、外国人向けの日本土産も置かれている。
書籍業界を取り巻く環境は厳しい。東京商工リサーチによると、2014年から23年までに書店を経営していた140社が倒産し、764軒の書店が廃業した。今回東京滞在中にいくつか大きな書店を訪れたが、客が少ないという印象を持った。アマゾンなど通信販売の普及が一因だろう。確かに、限られた時間でお目当ての本を書店で見つけるのは楽ではない。急いでいる時にはアマゾンの方が、欲しい本を入手するのにかかる時間と労力を節約できる。ただし、書店に行くと、思わぬ本との邂逅(かいこう)がある。私も今年の日本滞在中に書店を訪れて、予想もしていなかった本との出会いがあった。この出会いによって、いろいろな知識を得ることができた。例えば、立川の大きな書店をブラブラうろついていたら、探していた核融合に関する入門書を見つけることができた。「ドンピシャリ」という形容がぴったりだった。
日本著者販促センターによると、書店が1軒もない地方自治体の数は、15年の332カ所から、17年には417カ所に増えた。私は銀座の教文館書店でたくさん本を買い込み、店を後にしながら心の中で「強い逆風が吹いていますが、頑張って下さい」と声をかけた。
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
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