北海道で熊と遭遇したドイツ人
今年6月に私の友人のドイツ人Vさんは、レンタカーに乗って、妻と北海道で3週間旅行した。札幌、登別、網走などを回った。Vさんは大自然が好きである。彼と妻はある日、知床で山道に車を停めて、歩いて山の中に入り、滝を見に行った。その後、車に乗り込んだところ、近くに熊がいたことに気づいた。もしも車に乗り込むのが遅れていたら、熊と鉢合わせになるところだった。Vさんは車の中から、スマートフォンで熊が遠ざかる様子を撮影した。
Vさんは北海道の人々から、「熊に遭遇したら、あわてて逃げ出すのは危険だ。むしろじっとしている方が良い。一番悪いのは、母熊と子熊の間に人間が入ることだ。母熊が人間に子熊を奪われると思うからだ」と聞いていた。あるハイキングコースでは、熊が頻繁に出るために、ガイドが同行しないと歩くことができなかった(ガイドは有料)。ハイキングに行く前に、研修センターで、熊による被害を避けるにはどうしたら良いかについてのビデオを見せられた。歩いている時にはなるべく鈴などで音を立てて、熊が人間に近づかないようにする。
私は6月に札幌郊外の、ある温泉地へ行った。山の中の散歩道にロープが張られて、入れなくなっていた。「熊が出没します」という警告があった。また、 この温泉地の乗合バスの停留所にも、「この付近で熊が目撃されました。ゴミなどは捨てずに、家に持ち帰って下さい」というポスターが貼られていた。札幌からバスでわずか1時間の場所だ。
環境省によると、2023年度の熊による被害は全国で219件で、過去最高だった。熊に襲われた人の数は198人で、そのうち6人が死亡している。
北海道では、23年1月から11月までの熊の目撃に関する警察への通報件数は4000回に達している。これまで知床半島では通常、1年間に捕獲されたり射殺されたりする熊の数は30頭前後だった。だが、23年には約180頭が捕殺された。秋田県など東北地方でも人身被害の件数が増えている。
この背景として、日本クマネットワークシンポジウムは、「熊が好む木の実(ハイマツ球果など)が少なくなったために、熊が食べ物を求めて、以前よりも頻繁に人里に近い場所に出てくるようになったのではないか。熊の個体数が増えたことや、熊が人間の匂いに慣れたことも影響していると思われる」と指摘している。
熊の大量出没は、観光地にも影響を与える。熊たちの人間界への侵入を食い止めることは可能だろうか?
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
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