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新ヨーロッパ通信

日本の鉄道・光と影

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 日本に帰るたびに、「この国の鉄道はすごい」と感心する。東海道新幹線の定時運行率は約90%。台風や地震、停電などの突発事態がない限り、まず遅れない。ドイツの長距離列車の定時運行率は約62%だから、完全に負けている。ドイツでの列車の旅では、台風や地震などの突発事態がなくても、2~3時間遅れることは全然珍しくない。鉄道インフラの老朽化や人手不足が原因だ。ドイツで重要なアポイントメントがある時には、約束の時間の2時間前に目的地に着く列車に乗るか、飛行機を使う。
ちなみに、新幹線では1分以上の遅れを「遅延」と見なしているが、ドイツの列車の遅延は6分以上である。とても比較にならない。ドイツも1分以上の遅れを遅延と見なしたら、定時運行率は10%くらいに減るかもしれない。
 ただし、東京で電車に乗ってびっくりすることがある。それは、「人身事故(飛び込み自殺)」の頻度だ。私は今年5月から7月まで日本にいたが、駅に行くたびに、東京のどこかで人身事故が起きたという表示があった。人の命が失われたわけだが、件数が多いためか、新聞記事にもならない。人々は忙しく、自ら命を絶つ人のことを考えている暇もないのかもしれない。
 特に人身事故が目立つのが、東京の中央線だ。JR東日本によると、今年6月に中央線で起きた人身事故は8件で、一時運転を見合わせた。このため、私は都心で講演を行う時には、少なくとも講演開始時刻の2時間前に目的地に着くように電車に乗っている。早く着いて時間を持て余す方が、遅刻するよりは良い。
 中央線は首都圏で最も遅延が多い路線でもある。国土交通省によると、2018年に遅延証明書を発行した日が最も多かったのは、東京と甲府間の中央本線・快速で19日。また、三鷹と千葉の間の中央・総武線各駅停車でも19日と最多だった。これに対し京王線は6.5日と中央線の半分以下である。中央線で遅延が多いことの原因の一つは人身事故の頻度だと思われる。
 中央線で人身事故が多い理由の一つは、東京と高尾を結ぶ快速の駅に、ホームドアが全く設置されていないことだ。ホームドアを設置する費用は、1駅あたり4億円~5億円。JR東日本にとって、大きな負担になることは間違いない。しかし、ホームドアの設置によって、人身事故だけではなく電車の遅延も減るとしたら、必要な投資ではないだろうか。特に、人の命がかかっているだけに、改善を要望したい。
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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