闇バイトと所得格差
最近、東京周辺で、いわゆる「闇バイト」による組織的な強盗事件が多発しているというニュースを聞いて、治安の悪化に驚かされた。今年8月以来、東京、千葉、埼玉などで14件の強盗事件が起きた。10月に横浜で起きた事件では75歳の男性が殺害され、20万円の現金を盗まれた。実行役は、ネット上の「募集広告」を見て集められた若者たちだった。独り暮らしをしている多くのお年寄りが、不安を抱いているに違いない。
フランスなどでは約10年前から、強盗が独り暮らしのお年寄りの家に押し入り、拷問にかけて銀行口座の暗証番号を聞き出して金を奪うという事件が起きている。日本でも、同じような事件が起きているのだ。犯罪組織に誘われ、闇バイトとして強盗や殺人に走ったのは、借金などを抱え金に困っていた若者たちだった。
事件の背景には、所得格差の拡大がある。厚生労働省の統計によると、2023年には就業者の37%がアルバイト、パートなどの非正規雇用だった。実数にして約2124万人。前年比で23%の増加である。厚生労働省によると、非正規雇用労働者の年間平均賃金は、22年の時点で306万円だった。
経済学の世界では、社会の所得配分の状況を知る目安としてジニ係数が使われる。数字が0に近いほど所得が平等に配分されていることを示し、1に近いほど所得格差が大きいことを示す。23年8月に厚生労働省が発表した21年の日本のジニ係数(税金や社会保障による再配分前)は0.57で、前回調査が行われた17年の0.5594から上昇した。過去最高だった14年の0.5704に次ぐ水準だ。ちなみに、ドイツの22年のジニ係数は0.3だった。つまり、日本では、ドイツよりも所得格差が大きい。
私は毎年1回日本に出張するが、所得格差の拡大はさまざまな所で目につく。十分に食事をできない子どもたちのための「子ども食堂」の数が9000カ所を超えている。その一方で、高級レストランは満員だ。借金に追われ犯罪に走る人が増える一方で、お金が余っている人もいる。SNSで常時流れている暴力シーンのビデオも、暴力へのためらいを減らす。
「自分は社会から見捨てられている。金を持っている人間から金を奪って何が悪い」と自暴自棄になる若者が増えているのかもしれない。私は、所得格差を減らし若者の貧困問題に真剣に取り組まない限り、闇バイトによる強盗事件のような犯罪はさらに増えると思う。若者たちに言いたい。闇バイトは犯罪だ。おいしい話には、わながある。誘惑に負けてはならない。
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
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