フォルクスワーゲン危機が深刻化(上)
トヨタに次ぐ世界第2位の自動車メーカー、フォルクスワーゲン(VW)が深刻な危機に陥っている。10月28日にVWグループの経営陣は労組に対し、「国内の10カ所の工場のうち少なくとも3カ所を閉鎖し、数万人の従業員を解雇する他、残った従業員の給与水準も平均10%引き下げる」と通告した。
これは、過去との訣別だ。1937年創業のVWは、これまで国内工場を閉鎖したことが一度もない。VWの事業所評議会は94年に経営側と「雇用保証協定」を締結していたが、今回経営陣はこの協定を破棄した。VWは来年7月以降、国内の従業員を解雇できるようになる。
経営側は過去のタブーを破り、痛みを伴う改革に踏み切る理由について、「コロナ禍前には欧州では毎年約1600万台の車が売られていた。しかし、現在では年間販売台数がコロナ禍前に比べ約200万台少なくなっている。VWでも約50万台減る」と説明し、生産能力が過剰になっていると強調した。
労組側は「この発表はVWが経営に失敗したことを認めたようなものだ。工場閉鎖や解雇は受け入れられない。苦境の責任は、魅力あるBEVを開発できなかった経営陣にある」と反発しストライキも辞さない構えだ。
リストラの焦点は、VWグループの旗艦・コアブランド(中核ブランド)に属する「VW乗用車部門」だ。この部門は、ゴルフやパサートなどを生産している。
VWグループは全世界で約68万人を雇用しており、昨年約936万台を販売した。コアブランドは欧州を中心として483万台を売った。これはVWグループの販売台数の約52%にあたる。コアブランドに属するのは、VW乗用車、スコダ、セアート/クプラとVW商用車の4部門だ。
コアブランドの今年上半期の販売台数のうち、最大の比率(約58%)を占めるのはVW乗用車部門で、約152万台を売った。だが、同部門の営業利益率(営業利益が売上高に占める比率)は2.3%と、コアブランドの中で最低だった。しかも、スコダなどコアブランドの他の部門では、昨年上半期から今年上半期に営業利益率が改善したが、VW乗用車部門だけは前年同期比で1.5ポイント悪化した。経営学の世界では、営業利益率は少なくとも5%を上回る必要がある。2.3%は落第点だ。
VW乗用車部門の今年上半期の営業利益率は、VWグループに属するポルシェ(15.7%)やアウディ(6.4%)、競合相手のルノー(8.1%)、ステランティス(10.0%)に比べても低い。経営陣はこの状態を根本的に変える必要があると判断した。
(つづく)
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92