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移民国家ドイツの潜在力

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 ドイツは高齢化と少子化が進んだ社会だ。このため、税金や社会保険料をきちんと払う優秀な移民なしには、経済も社会も成り立たない。
 私が住んでいるミュンヘンでは、市民の約50%が、外国人かドイツに帰化した元外国人だ。ドイツの多くの大都市はどこもこんな感じである。
ショルツ政権の大臣、政党の幹事長、公共放送局の記者やアナウンサー、ニュースキャスターにも、トルコ系、イラン系、インド系市民の子どもなど、移民系ドイツ人がどんどん増えている。世界で初めてコロナ・ワクチンを開発したドイツのビオンテック社の社長も、トルコからの移民の子どもだ。
 移民系外国人の多くはドイツ生まれで、この国の高等教育を受けているので、ドイツ語は完璧である。政府は自国を「移民国家」と定義している。その意味では、米国と似ている。私のように日本から来て32年間住んでいる人間でも、全然肩身が狭い思いがしない。私の住んでいるミュンヘンのアパートの隣人たちも、スペイン、ノルウェー、インド、カナダなどさまざまな国から来ている。
 企業に招聘されれば、ドイツでは労働ビザの取得は比較的簡単である。外国で高等教育を受けた外国人には、企業の招聘がなくても、半年にわたってドイツに住んで仕事を探せるように、短期の滞在許可が以前よりも簡単に取れるようになっている。ITエンジニア、半導体設計者など経済界が求める人材がこの国に移住するように、政府が法的な枠組みを整えている。
 東欧や南欧に比べると高いドイツの給料、充実した社会保障制度、年間30日の有給休暇、1日10時間に制限された短い労働時間なども、特殊技能を持つ外国人にとっては魅力だ。
 それに比べると、日本は移民の潜在力をうまく使うことに消極的だ。日本にいると食事もおいしく治安も良いので快適だが、「内に閉じている」感じがする。異質な文化や発想と直面することによる刺激に乏しい。知的刺激がないと、社会は弾力性を失う。
 日本社会も、そろそろ移民に対する意識を根本的に変える必要があるのではないだろうか。先日、「出入国在留管理庁の収容施設で、昨年までの5年間に3人の外国人が死亡し、国連人権委員会が日本政府に医療体制などの改善を勧告した」というニュースが流れた。国籍を問わず、人間には医療サービスを受ける権利がある。優秀な技能を持った外国人の移住を促進するためにも、こうした事件の再発は防いでほしい。
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
筆者ホームページ http://www.tkumagai.de

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