躍進するポーランド経済
私は毎年、ワルシャワに講演旅行に行く。この町に来るたびに、人々のファッションが洗練されていくのを感じる。中央駅に隣接したショッピングモールは、ドイツやフランスと比べても全く遜色がない。中心街には高層ビルが次々に建設されている。
いま、ポーランド経済は、ドイツよりも元気が良い。2023年のポーランドの実質国内総生産(GDP)の成長率は0.2%で、ドイツ(マイナス0.3%)を上回った。24年も、ポーランド経済は3%の成長が予想されており、ドイツ(0%)を上回る見通しだ。ポーランドの成長率は日本の24年の成長率(0.3%)にも水を開けそうだ。
特にポーランドで活気があるのが製造業だ。ドイツ連邦統計局の発表によると、ドイツの工業生産額は15年から23年までに3.6%減ったが、ポーランドの工業生産額は同時期に51.9%増えた。
その理由の一つは、ドイツでは人件費の高さや労働力不足のために、ポーランドなど東ヨーロッパの国々に生産設備を移す企業が増えていることだ。特に、ドイツの自動車部品業界では、ポーランドでの生産を増やす企業が増えている。
ドイツにはミーレという有名な洗濯機メーカーがある。1899年に創業した同族企業だが、この国の市民でミーレという名前を知らない人はほとんどいない。ところが、今年2月にミーレの経営陣は、ドイツの従業員数(約1万人)を2000人減らし、ポーランドでの従業員数を700人増やすと発表した。経営陣は言及していないが、この背景にドイツとポーランドの人件費の大きな格差があることは確実だ。
ドイツ連邦統計局によると、2023年のポーランドの製造業界の平均時給は13.2ユーロで、ドイツ(46ユーロ)の3分の1以下だった。ポーランドの22年の年間平均賃金は3万6897ドル(553万円、1ドル=150円換算、以下同じ)で、ドイツ(5万8940ドル=884万円)よりも37%安かった。ポーランドでは労働力不足がドイツほど深刻化していないほか、ポーランド人労働者の教育水準も高い。ミーレの経営陣は、収益性を維持するには、ドイツでの生産を減らしてポーランドの事業を拡大しなくてはならないと判断したのだろう。
現在ドイツは、08年のリーマンショック以来最も深刻な景気後退に襲われている。今後ドイツの産業界では人件費を削減するために、ポーランドなど東ヨーロッパ諸国での生産比率を高めようとする動きが強まるものと予想されている。「欧州の病人」ドイツの失業率が高まるのは、避けられない見通しだ。
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
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