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アルプス地方に見る温暖化

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 私は11月28日にバイエルン州南部の山岳地帯を訪れた。標高は海面から912メートル。アルプス山脈独特のゴツゴツした岩だらけの山系がそびえている。
ところが、この日の温度は摂氏2度で、雪ではなく雨が降っていた。雪は村の所々で地表を覆っているだけだ。
 さすがに高さ2962メートルのヴェッターシュタイン山系は、粉砂糖をまぶしたように所々が雪に覆われている。しかし、ほとんどの岩壁は雪に覆われておらず、灰色の地肌をさらしている。麓の針葉樹林には雪が積もっておらず、溶けた雪の塊が時々地表に落ちる。山道でも土が露出しており、雪が溶けつつあった。
 実際、バイエルン州の平均気温は徐々に上昇する傾向にある。2020年の平均気温は10.4度。1880年に気温の観測が始まって以来最も高い値だ。もちろん、個々の年の平均気温は大きく変動する。しかし、ドイツ気象台が1880年から2020年までの平均気温の傾向(トレンド)を分析したところ、140年間のバイエルン州の平均気温は、右肩上がりの傾向をはっきり示した。
 さらに、2019年の夏(6月1日から8月31日)のバイエルン州では、平均気温が19度だった。これは、1961年から90年までの平均気温の中間値よりも3.2度高い。    バイエルン州南部でも、平均気温が1961年から1990年までの平均気温の中間値よりも3.5~4.0度も高い地域があった。
 私がミュンヘンに来た1990年には、真冬に気温がマイナス15度前後まで下がることは珍しくなかった。1989年11月に壁が崩壊した直後のベルリンに行ったが、あの時の厳しい寒さは今も忘れない。積雪量も今より多かった。近年では、真冬でも気温がマイナス15度まで下がることはほとんどない。クリスマスに雪が積もることはめったにない。
 2018年のクリスマスに列車で旅行したが、バイエルン州、そしてオーストリアでは、車窓から雪が全く見えなかった。スイスに入ると雪景色が見えた。標高1822メートルのサンモリッツは深い雪に覆われていた。つまり、バイエルン州南部の山岳地帯の2倍の標高を持つ地域まで行かないと、雪が積もっていないのだ。しかも、そのスイスですら、氷河の規模が年々小さくなりつつある。
 ドイツの緯度は樺太とほぼ同じだ。この北国ですら冬将軍が退却しつつある現状を見ると、気候変動の深刻さが強く感じられる。
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
筆者ホームページ http://www.tkumagai.de

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