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VWが従業員数の大幅削減を決定

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 昨年9月以来、フォルクスワーゲン(VW)では、大規模なリストラの内容をめぐり経営陣と労働組合の交渉が続いていたが、12月20日に両者は合意したと発表した。工場閉鎖や大量解雇は避けられたものの、合意内容は、従業員たちにとり厳しいものとなった。
 VWはドイツで約12万人を雇用しているが、同社は2030年までに従業員数を約3万5000人減らす。その際には解雇ではなく、退職勧奨などの方法を取る。経営側は30年末まで「雇用保証協定」を締結した。
 また組合側は30年まで従業員の賃上げを凍結し、賞与をあきらめることに合意。経営側はVWの管理職4000人の給料を平均10%カットすると発表した。
 経営側は、「電気自動車(EV)の売れ行き不振のために生産能力が過剰になっている」として、国内の10工場のうち3工場を閉鎖する方針だったが、この計画は撤回した。
 ただしドレスデン工場での自動車の生産は今年末までに終了し、自動運転と半導体の研究開発センターを設置する。またオスナブリュック工場でも27年までに生産を修了し、設備を他社に売却する。一部の乗用車の生産をドイツからメキシコへ移転する。VWは、国内の乗用車生産能力を、現在に比べて73万4000台減らす。
 同社はこれらの措置により、毎年経費を150億ユーロ(2兆4000億円)減らす。そのうち、人件費の毎年の削減額は15億ユーロ(2400億円)となる。
 VWが今後6年をかけて国内の従業員数を約30%減らす背景には、人件費やエネルギー費用の高騰によって同社の価格競争力や収益性が低下しているという事実がある。VWのフラッグシップ(旗艦)である乗用車部門の24年上半期の営業利益率はわずか2.3%だった。経営陣は多額の経費を減らすことによって、国内乗用車部門の営業利益率を6.5%に引き上げることを目指している。
 VWは過去においては、国内部門の収益率の低さを、中国からの高い収益でカバーすることができた。しかしVWは中国でユーザーに人気のあるEVを開発できておらず、マーケットシェアが減りつつある。このため同社は、中国からの収益で国内部門の低い収益をカバーすることができなくなった。
 VWの経営陣は、これまで先延ばしにされてきた、痛みを伴うリストラに踏み切らざるを得なくなったのである。日本でも昨年12月に日産とホンダが競争力を強化するために、経営統合する方針を発表した(後に撤回)。世界各地で、自動車メーカーの生き残りをかけた試行錯誤が続いているのだ。
 (文と絵・熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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