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バルト三国がロシアの送電網から離脱

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 エストニア、リトアニア、ラトビア(バルト三国)は2月8日にロシアの送電網から離脱し、2月9日に欧州連合(EU)の送電網に接続した。
 バルト三国は1940年に強制的にソ連に併合された。しかし、ソ連の崩壊と前後して、バルト三国は1990年から91年にかけて独立した。だが、送電網は、ロシアとベラルーシの送電網と接続されていた。彼らは2025年に電力の面でもロシアからの独立を果たしたのだ。
 2月8日、バルト三国の送電事業者は、まずロシアとベラルーシとの国境にある9カ所の電力系統の結節点で、自国の送電網をロシア・ベラルーシの送電網から切り離した。翌日にはポーランド経由で、EUの電力系統に接続した。
 欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、「われわれは歴史の新たな1ページを開いた。バルト三国は、EUでロシアの電力系統に接続されていた最後の加盟国だったが、彼らは欧州の系統に接続され、ロシアへのエネルギー依存から脱却した」と述べた。
 「バルティック・シンクロ」と命名されたプロジェクトが始まったのは2007年。バルト三国はEUと北大西洋条約機構(NATO)に加盟した直後に、「EUの電力系統に接続したい」という希望を表明した。バルト三国とポーランドは、18年をかけて新たな送電線などの設備を建設した。総工費は12億3000万ユーロ(1968億円、1ユーロ=160円換算)。そのうちの75%をEUが負担した。
 現在ポーランドとバルト三国を結ぶ結節点は1カ所だが、30年までに「ハーモニー・リンク」と呼ばれる2カ所目の結節点が建設される予定だ。
 バルト三国がロシアの電力系統から離脱したのは、地政学的な理由による。将来ロシアとNATOの間で緊張が高まった場合に、電力を止められる危険を減らすためだ。当初、EU電力系統との接続は今年12月に完了する予定だったが、ウクライナ戦争が始まってから完成を10カ月早めた。バルト三国は、22年のロシアのウクライナ侵攻以降、ロシアからのLNG輸入も停止した。
 近年バルト海では、ロシアと関連がある「闇船団」が錨(いかり)によって、スウェーデン、フィンランドとバルト三国を結ぶ、海底に敷設されたデータ回線などを破損させる事件が頻発している。
 NATOには、「万一ウクライナがロシアに占領された場合、プーチン大統領は矛先をバルト三国に向ける」という見方がある。バルト三国は、EUで最もロシアの脅威にさらされている。その意味で、バルト三国がEUの送電網に接続したことで、ロシアへの依存を減らしたのは喜ばしいことだ。
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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