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【新ヨーロッパ通信】 ウクライナ停戦交渉・欧州は蚊帳の外(3)

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 もちろん、ウクライナにとって最良の選択肢は、北大西洋条約機構(NATO)への加盟である。北大西洋条約第5条は、加盟国に対し、他の加盟国が攻撃された場合、自国への攻撃と同等に考えることを義務付けている。集団自衛権を発動することで、集団防衛態勢を構築できるのだ。地政学的リスクが高まりつつある欧州では、最も重要な「保険」である。
 だが、米国のバイデン前大統領やドイツのショルツ首相は、ウクライナのNATO加盟には否定的だった。これまでNATOが、すでに戦争に巻き込まれている国を加盟させたことは一度もない。
 ウクライナにとって、NATO加盟は積年の悲願だ。ウクライナ人たちは、「われわれは自国を守るためだけにロシアと戦っているのではない。ヨーロッパ全体を守る防波堤として、血を流している。したがって、NATOに加盟する資格がある」と主張する。
 これに対しNATOは、建前と本音を使い分けている。NATOは建前としては「ウクライナは将来NATOのメンバーになる」という公式見解を持っている。だが、ウクライナの加盟のための具体的な手続きを始める意向はない。なぜこのような矛盾した状況が生まれているのだろうか。そしてなぜ西欧諸国は、ウクライナのNATO加盟に消極的なのだろうか。
 2005年から21年までドイツの首相だったメルケル氏は昨年11月、「自由」と題した回顧録を出版し、同氏がウクライナのNATO加盟に反対した理由を解説した。
 08年にブカレストで開かれたNATO首脳会議では、ウクライナのNATO加盟が重要な議題の一つとなった。NATO加盟国は同年4月3日に公表した共同声明の中で、「われわれはウクライナとジョージアがNATOのメンバーになるということで合意した」と明記した。だが、NATOは加盟の時期を明らかにせず、ウクライナに対しメンバーシップ・アクション・プラン(MAP)のステータスを与えることを拒否した。
 当時、MAPはNATO加盟を希望する国にとって、加盟申請手続きの最初の重要なステップだった。MAPステータスを与えられたからといって自動的にNATOに加盟できるわけではない。しかし、このステータスを与えられた国にとっては、将来のNATO加盟の可能性が極めて高くなった。
 当時、NATO加盟国の中で、ウクライナにMAPステータスを与えることに最も強硬に反対したのが、メルケル氏だった。当時フランスの大統領だったサルコジ氏も、メルケル氏と同意見だった。当時米国の大統領だったブッシュ氏とライス国務長官は、ウクライナにMAPステータスを与えるべきだと考えていた。
 (つづく)
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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