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新ヨーロッパ通信

【新ヨーロッパ通信】ウクライナ停戦交渉・欧州は蚊帳の外(5)

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 ウクライナのゼレンスキー大統領は今年2月、「われわれは北大西洋条約機構(NATO)加盟をあきらめない」と語った。しかし、現実問題として、彼自身ウクライナのNATO加盟が難しいことも理解している。だからこそ、彼はNATO加盟に代わるものとして、「安全の保証」と米国を含む停戦監視軍を希望していたのだ。
 これに対しヘグセス国防長官は、ウクライナのNATO加盟だけではなく、安全の保証・停戦監視軍への参加をも拒否するという、ウクライナにとって極めて厳しい態度を打ち出した。
 米国は、ウクライナに「米ロ間の合意に従え」と圧力をかける材料を持っている。それは、ケロッグ特使が示唆しているように、ウクライナがトランプ政権の停戦案を受諾しない場合、米国はウクライナへの軍事支援・経済支援を削減または停止すると圧力をかけることができるからだ。
 米国は2022年以来、一国としてはウクライナに対して最も多くの軍事援助を行ってきた。キール世界経済研究所(ドイツ)によると、22年1月から24年12月までにウクライナに供与された軍事援助の総額は約1298億ユーロ(約21兆円、1ユーロ=160円換算、以下同じ)だった。そのうち約641億ユーロ(約10兆円)つまり約49%を米国が負担した。個別の国としては2番目に多いドイツの軍事援助額は126億ユーロ(約2兆円)で、米国の5分の1に過ぎない。
 つまり、万一トランプ政権が、「ウクライナがわれわれの提案を受諾しない場合、軍事援助を停止する」と脅した場合、ウクライナが受け取る兵器や弾薬などは半分に減る可能性がある。ウクライナ軍は現在でも砲弾などの不足に悩んでおり、米国の軍事援助停止は大きな打撃となる。
 トランプ政権は、ウクライナの領土についても、厳しい条件をつけた。ロシアは14年にクリミア半島に戦闘部隊を送って併合した。22年9月には、ロシアはドネツク、へルソンなどの併合を宣言した。ロシアの行為は、国連総会の決議によって国際法違反と認定されている。現在ロシアは、ウクライナ領土の約20%を支配している。
 今回トランプ政権は、ゼレンスキー政権に対して「クリミア半島など、14年にロシアに奪われた領土の奪還はあきらめろ」と伝えた。つまり、仮にウクライナが交渉への参加を許されても、交渉の対象は、22年以降にロシアがウクライナに侵攻してから占領した領土に限られる。
 ウクライナは、不法に占領された自国領土についての交渉を始める前から、米国にさまざまな条件を設定されることを、屈辱的と感じたはずだ。
 (つづく)
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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