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【新ヨーロッパ通信】ウクライナ停戦交渉・欧州は蚊帳の外(7)
ウクライナのゼレンスキー大統領は、トランプ大統領の態度に不信感を抱き始めている。ゼレンスキー氏は、トランプ氏が最初に自分と会談せず、まずプーチン氏と話したことについて不満を持っている。トランプ氏は2月には「ゼレンスキー氏は選挙によって選ばれていない独裁者だ」と非難した。
ゼレンスキー氏は2月14日、「われわれは、ウクライナが直接関与せずに、米ロ間で行われる合意は、絶対に受け入れない」と釘を刺した。彼はトランプ氏が停戦実現のためにロシアの要求を受け入れ、ウクライナに圧力をかけることを恐れている。
欧州諸国はウクライナの姿勢を支持し、米国の提案に反発した。EUは、「ウクライナの領土の保全、ウクライナのNATO加盟の支援、ロシアとの交渉ではウクライナの立場を強化する」という三つの原則を持っていたが、これらがいずれもヘグセス国防長官の発言によって事実上否定されたからだ。
ドイツのピストリウス国防大臣(当時)は2月13日、「交渉が始まる前に米国がロシアに対して譲歩したことを遺憾に思う。ウクライナのNATO加盟や領土問題は、停戦交渉の席で話し合われるべき問題だった。米国が停戦に関する条件を事前に公表したこと、ウクライナの要求を拒否したことは、誤りだった」と述べてトランプ政権を批判した。さらに「ウクライナの停戦に関する交渉には、米国とロシアだけではなくEUも参加するべきだ。欧州が蚊帳の外に置かれることは許されない」と訴えた。
EUのカッラス外務・安全保障政策上級代表も2月13日、「停戦交渉には、ウクライナと欧州諸国も参加しなくてはならない。ウクライナとEU抜きの合意は受け入れない」と述べた。
フランスのマクロン大統領は2月17日、ドイツのショルツ首相(当時)や英国のスターマー首相らをパリに招き、緊急首脳会議を開催した。だが、ウクライナ停戦に関する独自の提案は公表されなかった。この会議は、トランプ氏が猛スピードで進める外交政策に対し、欧州側の準備が不十分だったことを浮き彫りにした。
トランプ政権のケロッグ特使は2月15日に、「サウジアラビアでの米ロ間の交渉には欧州諸国は出席しない」と言った。欧州諸国はウクライナへの軍事援助の約47.7%を負担している他、ウクライナ避難民約630万人を受け入れており、戦争の間接的な当事者である。その欧州を停戦交渉で蚊帳の外に置いたことには、トランプ政権が欧州を軽視する姿勢が露骨に表れている。
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92