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新ヨーロッパ通信

【新ヨーロッパ通信】欧米間の文明の衝突(1)

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 トランプ政権下の米国と欧州諸国の間では、第二次世界大戦後最も深刻な「文明の衝突」が起きている。かつて共通の価値観で結ばれていた米国と欧州の、疎外と漂流が始まった。
 そのことを示すのが、今年2月に米国のJ・D・ヴァンス副大統領がミュンヘンで行った演説である。ミュンヘンでは、2月14日から3日間にわたり、恒例の安全保障会議(MSC)が開かれた。1963年から民間団体が毎年開いているMSCは、世界の多くの国の閣僚、軍人、外交官、政治学者らがバイエリッシャー・ホーフというホテルに集まって安全保障問題を話し合う珍しい会議だ。
 欧州人たちは、ヴァンス氏が2月14日の演説で、ウクライナ・ロシア戦争について語ると予想していた。ところがヴァンス氏は、聴衆に肩すかしを食わせた。
 彼は演説の中でウクライナ戦争についてはほとんど語らず、いわゆるトランプ主義(トランピズム)を披瀝し、欧州諸国とEUの「自由の抑圧」を厳しく批判した。
 彼は「最大の脅威はロシアや中国ではなく、欧州の内部にある。それは、欧州諸国の政府が市民の声に耳を傾けず、難民問題を放置していることだ。トランプ氏は、市民の声に耳を傾け、難民規制を強化すると約束したために大統領選挙で勝った」と主張した。
 さらにヴァンス氏は、「EUがSNSに発表される発言を検閲したり、政府のリベラルな見解にそぐわない意見を禁止したりすることは、言論の自由の抑圧だ」と指摘した。
 ヴァンス氏は、かつて欧米が共有していた価値に背を向けているのは、米国ではなく欧州の方だと批判した。彼はその例として、「スウェーデンでは、イスラム教の聖典コーランを焼いたキリスト教徒が、裁判所から有罪判決を受けた。英国では人工中絶に反対するビラを配った市民が刑事訴追を受けた。ルーマニアでは、2024年11月に行われた大統領選挙の結果が、裁判所によって『ロシアが投票行動に影響を与えた』という理由で無効にされた」と語り、「これらの措置は、民主主義に反する」と批判した。
 ヴァンス氏は、「欧州諸国は市民の主張を無視し、言論の自由を制限している。われわれ米国人は、こんな国々を防衛しなくてはならないのか?」とも述べた。ドイツではヴァンス氏のこの言葉を、「米国が北大西洋条約機構(NATO)の相互防衛義務を疑問視していることの表われ」と解釈する論調もある。ヴァンス氏は「トランプ主義を受け入れない国は、有事になっても守らないぞ」と示唆しているのだ。
 (つづく)
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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