コンテンツ
- ホーム
- 保険毎日新聞コンテンツ
- 連載コラム新ヨーロッパ通信
【新ヨーロッパ通信】欧米間の文明の衝突(3)
2月14日に米国のJ・D・ヴァンス副大統領は、ミュンヘン安全保障会議での演説で、「欧州各国の政府は市民の声に耳を傾けず、少数派の意見をSNS規制などによって禁止するなど、民主主義が不足している」と批判した。私は、米国人が欧州人に対して、民主主義のあり方についてお説教をしているような印象を受けた。
ドイツの政治家たちからは、ヴァンス氏の批判に対して反発する声が高まった。当時国防大臣だったボリス・ピストリウス氏は、ミュンヘン安全保障会議での演説で、「われわれ欧州人は、民主主義や言論の自由を守るために戦っている。ヴァンス氏がわれわれに反対する意見を表明する自由を保証しているのだ。だがヴァンス氏は、われわれを、言論を弾圧する強権国家と同列に並べた。これは受け入れがたい発言だ」と真っ向から反論した。
ヴァンス氏は、ドイツの政党に対して、極右政党ドイツのための選択肢(AfD)を村八分にせずに、難民規制などにおいてAfDと協力するよう呼びかけた。これに対してバイエルン州のマルクス・ゼーダー首相は、「どの党と連立するかは、われわれが決めることだ」と述べ、選挙に介入するかのようなヴァンス氏の発言を批判した。
ちなみに安全保障会議の主宰者は、「AfDは民主主義体制の破壊を目指す党だ」として、同党の幹部らを会議に招かなかった。ヴァンス副大統領は、別のホテルでAfDのアリス・ヴァイデル首相候補と会談した。
ドイツの保守系日刊紙フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)のニコラス・ブッセ記者は、「ヴァンス氏の演説は、トランプ主義(トランピズム)そのもので、聴衆に冷水のシャワーを浴びせた」と論評した。ドイツの経済日刊紙ハンデルスブラットは、「ヴァンス氏の演説は、米国の欧州に対する離婚宣言だ」と評した。ドイツ第2テレビ(ZDF)のある記者は、「ヴァンス氏の演説は、民主主義に関する米国と欧州の価値観が食い違っていることをはっきり示した」と伝えた。ヴァンス氏が「民主主義や言論の自由について教えてあげる」と年少者に教え諭すかのような態度を見せたことは、多くの欧州人に反感を抱かせた。
今年のミュンヘン安全保障会議は、米国と欧州が異なる道を歩み始めたことを示した。この会議は、欧州が米国に頼らず、自分の運命を自力で切り開かなくてはならなくなったことを、人々の心にあらためて刻み込む場となった。(つづく)
(文と絵・熊谷 徹 ミュンヘン在住)
筆者Facebookアカウント
https://www.facebook.com/toru.kumagai.92