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新ヨーロッパ通信

【新ヨーロッパ通信】米国・イラン攻撃の衝撃

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 6月中旬からの2週間に、中東情勢が急展開した。6月13日に突然イスラエルが、イラン攻撃を開始したのだ。イスラエルの攻撃は核施設だけではなく市街地にもおよび、市民を含む約600人が死亡し、約4700人が重軽傷を負った。
 イスラエルが攻撃を始めた最大の理由は、イランが数十年前から続けていた核開発に歯止めをかけるためだった。国際原子力機関(IAEA)は、イランが濃縮ウランの濃度を60%まで高めることに成功したと指摘していた。
 イランは、報復として弾道ミサイルなど約500発をテルアビブやハイファなどに撃ち込んだ。高層住宅や病院が被弾して、29人が死亡し約3200人が重軽傷を負った。
 イスラエルは、イランを中東で最大の脅威と見なしていた。イスラエルは核兵器を持っているが、敵国が核兵器を持とうとすると先制攻撃でその芽を摘む「ベギン・ドクトリン」という戦略がある。イスラエルは1981年にもイラクが建設していた原子炉を、2007年にシリアが建設中だった原子炉を爆撃して破壊した。イランの核開発は、イラクとシリアの計画よりもはるかに進んでいた。
 焦点は、イランの核施設の中で最も重要なフォルドウだった。この施設は地下深くにあるため、米国のバンカーバスターと呼ばれる特殊爆弾を使わなければ破壊できない。このためイスラエルは米国に攻撃を要請していた。トランプ大統領は、親イスラエル派である。彼は6月22日に米国本土からB2型ステルス爆撃機を中東に派遣し、フォルドウなど3カ所の核施設にバンカーバスターで攻撃を実施した。
 トランプはその上でイスラエルとイランを停戦に合意させた。イランはカタールの米軍基地を攻撃したが、それは国民に「米国に一矢報いた」ことを示すための攻撃であり、米国に事前に予告していた。
 トランプは、選挙戦の期間中に国内の支持者に「外国での戦争には介入しない」と約束していた。このためトランプは戦争の長期化だけは絶対に避けたかった。彼は強大な軍事力の行使でイランにショックを与えて、早期停戦をまとめ上げた。イランの核施設がどの程度破壊されたのかはわかっていない。同国は核開発をあきらめておらず、濃縮ウラン400キログラムを安全な場所に移していた。IAEAは「核施設は完全には破壊されていない」としているものの、米国の攻撃で核開発が遅れることは確かだ。ためらう米国を短期決戦に巻き込んだイスラエルのネタニヤフ首相にとっては、ひとまず満足できる結果となった。
(文と絵・熊谷 徹 ミュンヘン在住)
筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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