Advertisement Advertisement

コンテンツ

新ヨーロッパ通信

【新ヨーロッパ通信】サイゴンの街角から(4)ベトナムの味覚

SHARE

 シンガポール、タイ、台湾などアジアのいろいろな国を訪れたが、われわれ日本人の味覚に一番合うのは、ベトナム料理だと思う。
 サイゴン(ホーチミン)の第1区。この一角に、ホア・トゥックという食堂がある。
 ベトナムは海の幸の宝庫だ。ソフトシェルクラブという柔らかい甲羅を持つカニの天ぷらや、ライスペーパーで海老を包んだ生春巻など、海産物を使った料理がおいしい。素材の味が生かされており、野菜とシーフードが多い。ドイツ料理とは違って、胃腸への負担が少ない。
 メコンデルタに近いジャングルに行った時に、村の食堂でベトナム料理の昼食をとったが、ゆでたエビを混ぜたサラダは素朴ながら美味だった。
 日本でも人気が高いフォーは、ハノイなどベトナム北部が本場である。しかし私は、南部であるサイゴンでも、ペパーミントなどのハーブ(香草)を載せ、少しだけ唐辛子を入れたフォーを、朝食の時に食べるのが好きである。
 サイゴンの神髄は、他の東南アジアの国と同じくストリート・フードだ。飲食店の前の歩道に粗末なテーブルや、浴室に置くようなプラスチック製の低い腰かけが置かれている。人々はほとんどしゃがむような姿勢で、焼きそばやチャーハンをかきこんでいる。
 ある夜、驚くほど背が高い街路樹が並んだ通りを歩いていたら、歩道を埋め尽くすような路上食堂があった。3月のサイゴンの夜は暑くなく、屋外での食事に向いている。歩道の上に紐がわたされ、電球がぶら下がっている。若者たちがワイワイ言いながら、夕食をとっている。活気に圧倒された。ベトナムの人口は2023年の時点で1億40万人。平均年齢は約33歳で、日本(約49歳)よりも相当低い。町を歩いていても、「若い人が多い」と感じる。
 もう一つサイゴンで気づくことは、喫茶店の多さだ。その理由は、ベトナムがブラジルに次いでコーヒー豆の生産量が多い、世界第2位のコーヒー大国だからだ。ただしドロッとして砂糖がきいたベトナムコーヒーは欧州とは違う独特の風味があり、慣れるのに時間がかかる。
 サイゴンで忘れられないのが、移動式台所だ。リヤカーのような台車の上にガラスケースを取り付け、その中にコンロやまな板を置いて、ベトナム式サンドイッチ(バインミー)や焼きそばなどを作れるようになっている。農民のような編み笠をかぶった年配の女性が、この簡易キッチンを押して、バイクが行き交う車道をトボトボ歩いている様子が、私の目に焼き付いている。(つづく)
 (文と絵・熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

SHARE