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【新ヨーロッパ通信】サイゴンの街角から(5)ベトナムと日本経済
日本とベトナムの間の貿易関係は、拡大傾向にある。国連貿易開発会議(UNCTAD)によると、2021年のベトナムの日本への輸出額は203億ドル。2010年に比べて2.6倍の増加だ。輸出額の中では繊維製品が約18%を占めており、最も比率が高い。
21年のベトナムの日本からの輸入額は229億ドル。10年から2.5倍に増えた。ベトナムが日本から輸入する品目としては、電気機器が圧倒的に多く、21年の輸入額の約32%を占めていた。
日本企業の中には、中国依存度を減らして貿易相手を多角化しようとする企業が少なくない。これが、日本とベトナム間で貿易額が伸びていることの一因だ。
両国の経済関係で目につくのが、日本で働くベトナム人の増加だ。厚生労働省の25年1月の発表によると、日本での外国人労働者の数は24年10月末の時点で約230万人だったが、このうち最も多いのがベトナム人で約58万人。ベトナム人労働者の数は前年同期比で約10%増えた。58万人のうち、最も多いのが日本で技能を学びながら、単純労働を行う技能実習生で、約22万人(前年同期比で約6%増加)。これに対し、専門資格・技能を持って日本で働くベトナム人の数は前年同期比で約23%増えて、約20万人となった。日本政府は19年に「特定技能制度」を施行させ、介護、工業製品製造などの技能を持つ外国人の受け入れ数を増やそうとしている。このため今後は、技能を持つベトナム人の日本での就労が増えると予想される。
ちなみに昨年6月の時点で日本に長期滞在していたベトナム人の数は約60万人で、中国人(約84万人)に次ぎ2番目に多い。
私は今年3月に宇都宮で、中小企業の経営者たちと話をする機会があった。この地域には自動車部品などのメーカーが多い。彼らは「人手不足が深刻なので、ベトナムからの働き手は喉から手が出るほどほしい。大半のベトナム人は時間を守るし、態度も丁寧なので、日本で仕事をしてもらうのには向いていると思う」と語っていた。ある日本人経営者は、工場をベトナムに持っており、そこで約3000人を雇用している。彼は「ベトナムの時給は、日本の約10分の1です」と語った。今後は生産設備を中国からベトナムへ移す日本企業が増えるだろうと感じた。
日本でベトナム人を雇っている企業経営者からは、「最大のネックは言葉だ」という声を聞いた。日本語ができれば、ベトナム人たちの就労可能性はさらに広がるだろう。日本政府は国費での語学教育に力を入れるべきではないかと思った。(つづく)
(文と絵・熊谷 徹 ミュンヘン在住)
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