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【新ヨーロッパ通信】EUのCO2削減と抜け穴
7月2日、EUは2040年までに二酸化炭素(CO2)の排出量を1990年比で少なくとも90%減らすという目標を公表した。だが、環境保護団体からは「EUは危険な抜け穴を作った」という批判の声が上がっている。
その理由は、EUがCO2排出量の相殺制度の導入を盛り込んだからだ。つまり、企業はEU域外での植林や再エネ発電設備の建設などの気候保護プロジェクトでCO2排出量を節約すれば、その節約分で域内でのCO2排出量を相殺できる。EU域内でのCO2排出量を、EUの外で節約するCO2排出量で帳消しにするわけだ。具体的には、EU域外で節約されるCO2についてカーボン・クレジットと呼ばれる排出量証書を発行し、これを市場で取引する方法が取られる。ただし、相殺できる排出量は、1990年の排出量の3%までに限られる。
環境保護団体グリーンピース・ドイツ支部のカイザー事務局長は、「90年のCO2排出量の3%まで、EU域外での気候保護プロジェクトでのCO2節約量を算入できるようにするという提案は、危険な抜け穴だ」と批判した。
環境団体が批判する理由は、東南アジアや南米、アフリカなどで気候保護プロジェクトを実施する場合、本当にCO2が削減されているかどうかを確認するのが難しいからだ。
気候学者たちの間では、排出量証書の実効性について懐疑的な意見が強い。その典型が、97年の京都議定書の枠組みの中で生まれた「クリーン・デベロップメント・メカニズム(CDM)」だ。先進国の企業はCDMの枠組みによって、発展途上国での気候保護プロジェクトに投資することで、CO2削減量を証明する排出量証書を調達する。そして排出量証書をマーケットで販売する。西側の企業はこの排出量証書を購入することで、自社のCO2排出量を相殺することができた。購入企業の大半がEU域内の企業だった。
これまでに8218件の気候保護プロジェクトについて、約23億ユーロ(3910億円、1ユーロ=170円換算)相当の排出量証書が販売された。
だが、マックス・プランク研究所のプローブスト研究員らは、24年11月に英国のネイチャー誌に発表した論文の中で、「CDMの気候保護プロジェクトの中で、本当にCO2排出量の削減に貢献したのは16%にすぎない」と批判した。彼は、プロジェクトの大半は、CO2排出を減らすことにはつながらなかったと主張しているのだ。
EUの新しい3%算入オプションでは、CDMの失敗を繰り返してはならない。EUは域外でCO2排出量が節約されたことを確認できる厳しい認証制度を導入するべきだ。
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92