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【新ヨーロッパ通信】サービス砂漠・ドイツの症状が悪化
先日、ドイツ人の知り合いが、「ベルリンからミュンヘンまで列車で帰って来ようとしたら、到着が5時間も遅れた」とぼやいていた。ここ数年、ドイツ鉄道では、インフラの老朽化や人手不足のために、大幅な遅延が常態化している。2~3時間の遅れは当たり前で、乗り継ぎの電車に間に合わないことは日常茶飯事だ。私の知人が列車に乗って発車を待っていたら、「お客さま、運転士が見つかりませんので、この列車はキャンセルされました。2時間後に出発する列車にお乗り下さい」というアナウンスが流れた。
列車だけではなく、ここ数年、ドイツ社会のあちこちに金属疲労の兆候が見られる。日本に3カ月出張している間、郵便局に手紙などの局留め保管サービスを頼んだ。日本円で毎月2550円かかる。ところが、私宛ての郵便物は不在期間中に保管されずに配達され続け、郵便箱がいっぱいになってしまった。アパートの隣人が見かねて、郵便物をポストから抜き出して保存しておいてくれた。この局留めサービスは35年間、毎年使ってきたが、今年起きたようなトラブルはこれまで一度もなかった。
私は30年前から南ドイツ新聞という日刊紙を定期購読している。長年新聞を届けてくれたベテラン配達人が、定年退職した。すると、新聞が全然配達されなくなった。珍しく配達された日には、小さな郵便箱に分厚い新聞がむりやり押し込められ、新聞がビリビリに破れていた。過去30年間に一度もなかったことだ。このため私は、紙の新聞の定期購読をやめた。
先日、ミュンヘンの病院で健康診断のためにCTスキャンを受けた。看護師は、やる気のなさそうな外国人だった。腕の血管から造影剤を点滴で入れた。ところが、点滴の針を刺して抜いた部分の止血が悪く、待合室で新聞を読んでいたら腕から血がだらだら出て、私の白いシャツは鮮血で染まった。職員にそのことを言ったら、「3分間傷口を押さえて、腕を高く上げておかないからこういうことになるんだ」と怒られた。帰りの電車で他の乗客が驚くといけないので、病院の洗面所でシャツを洗った。過去35年間で、初めての体験だ。
私がドイツに来た1990年代に比べると、決めたこと、約束したこと、依頼したことがきちんと履行されなくなってきている。ここは日本に比べて常に「サービス砂漠」だったが、最近は顧客サービスの劣化が一段と激しくなっている。
観光や出張でこの国に来られる方は、ショックを受けないようにご注意下さい。
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92