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新ヨーロッパ通信

【新ヨーロッパ通信】移民をめぐる議論の混乱(上)

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 日本では参議院選挙前に、外国人受け入れについて激しい議論が行われた。私の目についたのは、多くのメディアや政治家が、合法的な移民と難民、または不法移民を混同していることだ。
 合法的な移民とは、滞在先の国の政府から滞在許可や労働許可を取得し、社会保険料や税金を納め、法律に違反せず、現地の価値観や習慣を尊重する移民だ。筆者が住むドイツは自国をカナダなどと同じ「移民国家」と定義しており、この国に住む外国人の大半は、合法的な移民だ。
 難民とは、戦争や政治的迫害から逃れて、亡命する外国人だ。難民はしばしば財産を持たずに逃げて来るので、当初は生活保護に頼らざるを得ない。
 不法移民は、滞在許可を取らずに外国に不法に移住する外国人だ。彼らは当局に見つかり次第、出身国に送還される。
 日本の政党のウエブサイトやメディアでは、しばしば合法的な移民、難民、不法移民が「移民」という言葉で一括りに表現され、混同されている。
 例えば、こんな文章を見た。「海外では急激な移民増加により社会が不安定化し、移民受け入れ規制の方向に進んでいる」。この文章では、「移民」が合法的な移民を指しているのか、難民や不法移民のことを指しているのかがわからない。合法的な移民、難民、不法移民を「移民」という言葉で一括りにすることは、全ての外国人について悪いイメージを与えるので、私は反対である。
 欧州では、難民または不法移民と、合法的な移民に対する政府の対応は全く異なっている。ドイツ政府は憲法第16条の規定に基づき、戦争や政治的迫害などの被害者を亡命者として保護する。
 今ドイツなどEU加盟国は、亡命資格がない外国人の受け入れ規制や、亡命申請を却下されたり犯罪をおかしたりした外国人の国外追放を強化している。
 一方ドイツは、合法的な移民については、受け入れを促進する方針だ。その理由は深刻な労働力不足である。例えば、ドイツ経済研究所(IW)が昨年10月に公表した研究報告書によると、この国では技能を持つ労働力53万人が不足している。
 ドイツ連邦統計局によると、2018年にこの国の就業可能人口(20歳~66歳の市民)は5180万人だった。政府は、35年には就業可能人口が18年に比べて最高11.6%(600万人)、60年には最高22.8%(1180万人)減ると予測している。
 このためドイツ政府は、経済水準や社会保障制度を維持するために、毎年合法的な移民を40万人受け入れることを目指している。
 (つづく)
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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