Advertisement Advertisement

コンテンツ

新ヨーロッパ通信

【新ヨーロッパ通信】EU・米国「15%関税合意」に批判の声(下)

SHARE

 欧州では、米国との「15%関税合意」を手放しで歓迎する人は少ない。特に経済学者たちは、厳しく合意内容を批判している。多くの学者たちは、「EUはこの合意を通じて、米国による自由貿易体制の破壊に手を貸してしまった」と指摘する。
 キールの世界経済研究所(IfW)のヒンツ教授は、「EUと米国の今回の合意は、良いディールではなく宥和政策だ。EUは短期的に貿易戦争を回避するために、長期的に高い代償を払った。世界貿易機関(WTO)のルールに基づいた自由貿易の原則は、長年にわたって欧州の繁栄を築いたが、今回の決定でEUは自由貿易の原則に背を向けた」と語る。
 ヒンツ氏は、「ドイツの今年のGDP成長率はトランプ関税の影響で0.13ポイント減る程度だが、長期的損害ははるかに大きい。WTOルールによると、関税率は相互に同じにすることが原則。EUと米国間の合意により、このルールが無視された」と批判する。
 彼は、「EUはこのような合意を拒絶して、メキシコ、ブラジルなど、自由貿易を重視する国々と連合体を作り、トランプ政権に対抗するべきだった。EUは合意を受け入れることで、他国をお互いに競争させるトランプ氏の戦略を強化してしまった」と嘆く。
 IfWのシュラリック所長も同意見だ。彼は、「大きな負担は長期的にやって来る。EUは、規則に基づく自由貿易体制を守ろうとせずに、ポピュリストの機嫌に左右され、どれだけ続くかわからない合意を受け入れた」と批判する。
 トランプ大統領の意見や政策が、毎週のように変わることを懸念する学者もいる。ケルン・ドイツ経済研究所(IW)のヒューター所長は、「EUと米国の合意で、世界は静かになると期待することはできない。トランプ氏は、関税という武器を手放さない。いつでも使えるように、常に手元に置いておく」と警告する。EUと米国との関係が将来険悪になった場合、トランプ大統領は再びEUからの輸入品に対する関税率を引き上げるだろうという指摘だ。
 欧州では、「EUが不利な内容の合意を受け入れたのは、トランプ氏の機嫌を損ねて、米国が北大西洋条約機構(NATO)から脱退するなど、防衛協力を減らすことを恐れたため」という指摘が強い。つまり、EUは防衛について米国に大きく依存しているので、貿易に関して米国の条件をのまざるを得なかったというのだ。米国は将来も、貿易と防衛をリンクさせるだろう。米国は日本に対しても、似たような戦略を使う可能性がある
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

SHARE