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新ヨーロッパ通信

【新ヨーロッパ通信】ドイツの新しい兵役制度は成功するか?

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 ドイツのメルツ政権は8月27日、ロシアの脅威に備えて連邦軍の兵力を大幅に増やすための、兵役制度に関する法案を閣議決定した。日本のメディアでは「徴兵制導入へ」という表現が見られるが、正確ではない。第一段階は志願制として始まる。
 2026年から、政府は18歳の誕生日を迎えた男女に質問票を送る。男性は回答義務があるが、女性は任意だ。市民はこの質問票を通じて、連邦軍で基礎訓練を受けることに関心があるかどうかや、資格などについて答えることを求められる。
 連邦軍は、「関心がある」と答えた市民の中から、軍務に適していると判断した者を適格検査に招く。連邦軍は適格検査で「軍務に向いている」と判定した若者に対し、基礎訓練を受ける気があるかどうか質問する。政府は、兵士の給与などの待遇を大幅に改善することで連邦軍の魅力を高める。
 志願した若者は、6カ月の基礎訓練を受ける。軍務に関心がある者は、兵役期間を17カ月延長することができる。
 ただし、27年7月1日からは、軍務に就くことを希望しない者も含めて、08年以降に生まれた全ての男性が、適性検査を義務付けられる。その際にも、連邦軍での基礎訓練を受けるかどうかは任意であり、強制はされない。
 志願制だけでは十分な数の兵士がそろわない場合には、第二段階に移行し、強制的な徴兵の可能性が生じる。政府は、地政学的な変化などのために短期間に兵員数を増やす必要が生じ、それが志願制では実現できない場合には、連邦議会が承認すれば、市民を基礎訓練に強制的に参加させることができる。
 現在連邦軍の現役兵士の数は約18万2000人。政府は、現役兵士を30年までに26万人に増やすことを目指している。
 基礎訓練を含めて、軍務に就いた経験を持つ者は予備役兵士として登録される。アクティブな予備役兵士の数は、現在約3万4000人。彼らは普段会社員や公務員などとして働いているが、軍の要請があれば警戒任務などの短期的な軍務に就いたり、定期的に訓練や軍事演習に参加したりする。政府は予備役兵士の数を20万人に増やすことを目指している。つまり、政府の計画通りに進めば、連邦軍は、30年までに現役兵士とアクティブな予備役兵士を合わせて46万人の兵力を持つことになる。
 保守政党の議員たちからは、「志願を中心にした兵役制度では、十分に兵士が集まらない」という懸念の声が出ている。新しい制度が機能し、徴兵が避けられるかどうかは未知数だ。
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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