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【新ヨーロッパ通信】列車遅延でドイツ鉄道の社長交代
ドイツ連邦交通省のシュニーダー大臣は8月14日、ドイツ鉄道(DB)のルッツ社長を更迭した。その理由は、同社の鉄道インフラ整備のための投資が大幅に遅れ、投資額も十分ではなかったためだ。
この結果、DBでは列車の遅延が慢性化しており、長距離列車が2~3時間遅れるのは珍しくない。ドイツでは列車の到着時刻が定時よりも6分以上遅れたケースを遅延と見なす。DBの統計によると、今年8月の長距離列車のうち、定刻に到着したのは66.7%だった。今年7月には初めて、3日連続で定刻到着率が40%を割った。原因はインフラの老朽化と、人手不足だ。
私の知人は、ボンからブリュッセルへ列車で行こうとした。すると、列車が故障して、乗客は全員、無人駅で降ろされた。目的地への到着は8時間遅れた。別の知人が乗ったローカル線の列車は、運転士が見つからなかったために、キャンセルされた。私は、講演など重要なアポイントメントがある日には、列車は絶対に使わない。列車が2時間遅れたために、もう少しで遅刻しそうになったことがあるからだ。
座席を予約しても、切符に書かれた番号の車両がないことは珍しくない。そういう時には、自由席に座る。何のために予約料を払っているのかわからない。
重要な駅の改修工事も遅れている。シュトゥットガルト駅の改修工事は2010年に始まり、当初19年に完成するはずだったが、工事開始から15年たった今も完成していない。完成予定は27年とされている。
ドイツ市民の間では、DBの列車の運行や建設工事の遅れについて不満が高まっている。このため、シュニーダー大臣は9月24日、同社でローカル線部門の取締役だった、52歳のイタリア人女性を社長に選んだ。
シュニーダー大臣は、インフラ整備の加速などによって、26年には長距離列車の定刻到着率を70%に引き上げることを目標にしていた。しかし、DBは「非現実的だ」として、70%の達成を29年に延期した。長期的には、スイス鉄道と同様に90%の定刻到着率を目指す。
私が学生だった1980年代には、ドイツの鉄道は連邦政府が直接運営する国営会社だった。当時のドイツ連邦鉄道の発着はまるで時計のように正確で、短い乗り継ぎ時間でも次の列車に乗り遅れることはめったになかった。だが、94年の民営化後、サービスの質が大幅に悪化した。
到着時刻を守ることができない列車は、この国の制度疲労、システムの劣化、経済の凋落を象徴しているように思われる。
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
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