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新ヨーロッパ通信

【新ヨーロッパ通信】トランプ関税50%の衝撃

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 2025年7日27日、EUと米国のトランプ大統領は、EUから米国への大半の輸入品の関税率を15%とすることで合意した。ただし、関税論争は、まだ終わっていない。
 その例が、鉄鋼とアルミニウムをめぐる問題だ。トランプ政権は今年6月4日以来、EUから米国に輸入される鉄鋼とアルミニウムに50%の関税を課していた。
 トランプ政権は8月15日に、「EUから米国に輸出される鉄鋼とアルミニウムに適用される50%の関税率を、407種類の機械の中に部品として使われている鉄鋼とアルミニウムにも拡大する」と発表した。拡大はほぼ一方的に行われ、EU側は米国政府と協議・交渉する時間を十分に与えられなかった。新たに第232条関税の対象とされた機械は、エンジン、ポンプ、建設機械、風力発電設備、農業機械、産業用ロボット、射出成形機、鉄道車両など多岐にわたる。
 例えば、アルミニウムのパイプやワイヤー、板金などが使われている機械については、アルミニウムの重量やその価額を計算して、50%の関税率が適用される。さらに輸出するメーカーは、そのアルミニウムが生産された国も米国政府に報告しなくてはならない。アルミニウムの製造国がわからない場合には、米国は200%の関税を罰則として適用する。
 機械工業をお家芸の一つとするものづくり大国ドイツにとって、第232条関税の機械部品への拡大は、大きな打撃だ。
 この拡大措置で影響を受ける外国から米国への輸出品の総額は、2400億ドル(36兆円、1ドル=150円換算)にのぼる。これは米国の輸入額の約13%に相当する。
 ドイツの農業機械メーカーA社が製造するトラクターやコンバインには、1万5000個の部品が使われている。その中には、鉄鋼やアルミニウムが使われている部品もある。
 A社は、ある農業機械を50万ユーロ(8500万円、1ユーロ=170円換算、以下同じ)で販売しているが、鉄鋼とアルミニウムが使われた部品に50%の関税率が適用されると、輸出価格は50%高くなって75万ユーロ(1億2750万円)になってしまう。このため、A社は農業機械を米国に輸出できなくなり、従業員に労働時間の短縮を命じざるを得なかった。
 ドイツ機械工業連盟によると、トランプ政権が機械に使われている鉄鋼とアルミニウムにも50%の関税率を拡大したことにより、ドイツ企業が米国に輸出する機械製品の40%が影響を受ける。
 こっそりと50%関税の適用範囲を広げるやり方はフェアではない。日本の政府、経済界にとっても細心の注意が必要だ。
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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