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新ヨーロッパ通信

【新ヨーロッパ通信】CO2削減と産業界

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 欧州連合(EU)は、2050年までに気候中立を達成するという目標を持っている。この時点で、空気中に排出される二酸化炭素(CO2)の量を実質的にゼロにする。24年にEU域内で排出されたCO2の約20%が、産業界から排出された。このため、エネルギー消費量が多い鉄鋼メーカーや化学メーカー、ガラス製造、製紙業などは生産プロセスから排出されるCO2の量を減らすための努力を続けている。しかし、一部の企業にとっては、EUが求めるCO2削減による経済的負担が大きな問題になっている。
 EUではCO2排出権取引制度が、製造業、電力業界などに適用されている。製造業界はEUから一定のCO2排出権を無償で供与されているが、ある水準を超える量のCO2を排出する場合には、市場で排出権証書を買わなくてはならない。
 17年以降、EUが市場のCO2排出権の量を減らしたために価格が高騰し、一時はCO2排出量1トン当たりの価格が100ユーロを超えた。
 EUは27年以降、企業へのCO2排出権の無償供与量を減らし、39年に無償供与を停止する。
 ドイツの産業界では、この計画に反対の声が上がっている。EUからの無償供与量が減ると多くの企業が排出権証書を買わなくてはならなくなり、コストが増えるからだ。ドイツ最大の鉄鋼メーカー・テュッセンクルップは、CO2排出権証書の無償供与期間を40年まで延長するようEUに要請した。
 同社はその理由を、「CO2排出権価格の上昇速度を抑えないと、鉄鋼の生産プロセスを変更して、CO2排出量を減らすための資金を確保できなくなる」と説明している。
 化学メーカーBASFも、「CO2排出権の無償供与期間を延ばしてほしい。現在のままでは、域内の化学産業の生産設備の国外流出が進む」と述べている。
 ドイツの化学メーカー、エヴォニクも「EUの排出権取引は、ドイツの産業界で働く約20万人の雇用を危険にさらす。産業界を守るためにこの制度を廃止するべきだ」と訴えている。
 現在ドイツ経済は、低成長と景気停滞に苦しんでいる。連邦統計庁によると、23年の実質GDP成長率は▲0.9%、24年は▲0.5%と2年連続のマイナス成長だった。今年の予想成長率も+0.2%と低い。トランプ関税も輸出に悪影響を与えている。こうした時代には、多くの経営者が「環境保護よりも企業の成長力、収益力を確保することを優先するべきだ」と考えるのだろう。産業界からは今後も、経済のグリーン化に対する逆風が強まることが予想される。
 EUは産業界のSOSに答えて、排出権取引制度を緩和するだろうか?
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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