コンテンツ
- ホーム
- 保険毎日新聞コンテンツ
- 連載コラム新ヨーロッパ通信
【新ヨーロッパ通信】どうしたドイツの製造業?
欧州随一のものづくり大国として有名なドイツで、製造業不況が深刻化している。特にこれまでドイツ製造業の心臓部と呼ばれた南西部のバーデン・ヴュルテンベルク州などで、自動車関連産業が窮境に陥っている。
例えば、世界最大の自動車部品メーカーのボッシュは今年9月、「国内の自動車関連部門を中心に、2030年までに従業員数を1万3000人減らす」と発表した。これまでに発表していた削減数と合わせると、2万2000人の削減だ。これは同社の全世界の従業員数の約5%にあたる。今年上半期にはドイツの大手自動車メーカー3社の営業利益が、トランプ関税や中国事業の不振などの影響で、前年同期に比べて軒並み2桁の減少率を示した。その余波が部品業界にも押し寄せている。
ボッシュは電気自動車(BEV)が普及すると期待して、BEV用部品の生産工場に多額の投資を行っていた。しかし、ドイツの景気停滞によりBEV普及が予想通りの速度で進んでいないため、過剰な生産能力が生じた。24年のボッシュの営業利益は前年比で33%減り、営業利益率は3.5%に落ち込んだ。1886年創業のボッシュは、19世紀に自動車の点火プラグを開発したことや、凍結した道でのスリップを防止するABS装置で有名だ。
自動車部品メーカーの老舗ZFも、社員数を1万4000人減らす。ドイツ最大の自動車メーカーであるフォルクスワーゲン(VW)は、2030年までに従業員の数を3万5000人減らす方針を発表している。アウディは7150人、ダイムラートラックは5000人、ポルシェは3900人削減する。VWは売れ残っている車を一掃するために、10月には一部の工場で車の生産を止めて、工員を自宅待機させた。24年以来、ドイツの自動車関連業界が発表している人員削減数を合計すると、10万2700人となる。
スポーツカーメーカー、ポルシェでは、今年の第3四半期の営業利益が、何と前年同期の100分の1に減ってしまった。
メルツ政権は、企業の投資を促すための税制改革や法人税の引き下げ、産業用電力料金の抑制などを打ち出したが、これらの対策が企業の業績を回復させるには数年の時間がかかる。
現在ドイツの失業者数は約300万人だが、製造業界の危機がさらに深刻化した場合、失業者が一段と増える可能性もある。この国の景気は、2008年のリーマンショック以降比較的良好だったが、20年のコロナ禍、22年のウクライナ戦争勃発とエネルギー価格の高騰以来、暗く長いトンネルに迷い込んだ。光明が見えるまでには相当の時間がかかるだろう。
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92
" alt="サムネイル">
" alt="サムネイル">