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【新ヨーロッパ通信】高まる反ユダヤ主義
私のミュンヘンでの知人の中に、Tというユダヤ人がいる。米国出身だが、ドイツに30年以上住んでいる。ユダヤ人としてのアイデンティティを大切にしており、キパという丸い被りものを常に着けている。
彼は今年9月、ミュンヘンの地下鉄駅でエスカレーターに乗っていたところ、後ろから来た男に「おまえはユダヤ人か?俺はイスラム教徒だ。俺はおまえが嫌いだ。くたばれ」と罵声を浴びせられた。殴られなかったものの、言葉の暴力を受けた。彼は警察へ行き、被害届を出した。Tは、「怒りと不安の気持ちでいっぱいだ」と語った。
2023年10月のハマスのイスラエル襲撃、そしてイスラエル軍のガザ地区での攻撃開始以降、ドイツでユダヤ人を狙う犯罪が増えている。連邦刑事局によると、昨年の第2四半期には、傷害、言葉の暴力などユダヤ人を狙った犯罪の件数は715件だったが、今年の第2四半期には899件と26%増加した。899件のうち、451件は極右勢力に属する者による犯罪で、322件はイスラム教徒など外国人による犯罪だった。
ドイツには約20万人のユダヤ人が住んでいる。ユダヤ人中央評議会によると、多くのユダヤ人が、外出する時には外見からユダヤ人とわからないように注意している。タクシー運転手に住所を知られないように、自宅から離れた所で下車するユダヤ人もいる。
今年9月には、ドイツ北部のフレンツブルクの商店の窓に「ユダヤ人お断り。おまえらを我慢できない」という紙が貼られた。ドイツ南部のフュルトという町のレストランでもユダヤ人を拒む内容の紙が貼られた。あるドイツ人記者は、「これらの貼り紙によって、ユダヤ人差別が顔を表わし、日常的になった」と指摘した。
これらの貼り紙は、1930年代にナチスの突撃隊が「この店はユダヤ人が経営している。ここで買い物をするな」という紙をユダヤ人の店に貼ったことを思い出させる。
反ユダヤ主義は欧州の他の国でも強まっており、イタリアやスペインでイスラエルからの観光客がレストランに入るのを拒否されたり、ユダヤ人が乗った旅客船が港に停泊するのを断られたりした例がある。
イスラエル軍がガザで7万人近い市民を死亡させたことは糾弾されるべきだ。だが、イスラエル政府の行為のために、ドイツに住むユダヤ人を差別、攻撃するのは的外れである。
ドイツ政府は反ユダヤ主義を批判し、ユダヤ人を狙った犯罪を厳しく取り締まる方針を明らかにしている。
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92
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