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【新ヨーロッパ通信】バレンシア大洪水・市民の怒り
10月25日の夕刻、私は南スペインの町バレンシアを車で走っていて、ひどい渋滞に巻き込まれた。約1年前にこの町で発生した大洪水の際の、州政府のずさんな対応に抗議する市民のデモだ。人々は、「われわれは忘れない。われわれは許さない」と書いたプラカードを掲げている。
10月29日の夜、バレンシア周辺で集中豪雨が発生。一部の地域では1時間に400ミリもの降雨量があった。このため川が氾濫し、バレンシア市南部のアリカンテ郡を中心に156平方キロメートルの地域で洪水が発生した。地下駐車場などに閉じ込められる人が続出し、229人の市民が犠牲になった。約6万軒の住居で浸水が発生し、約11万5000台の車が被害を受けた。アリカンテ郡のカタロハ、パイポルタ地区の道路では、濁流に流された車がまるで積み木のように重なっていた。損傷した車は今も野積みされている。
私はバレンシア市内を歩いている時に、建物の壁に「マゾンは人殺しだ」という落書きがあるのに気がついた。市民の怒りは、アリカンテ郡のカルロス・マゾン郡長に向けられた。その理由は、マゾン郡長の洪水対応が遅れたからだ。10月29日に、彼は女性ジャーナリストと高級レストランで4時間にわたって昼食をとっていた。アリカンテ郡で洪水が発生していたにもかかわらず、彼は直ちに災害対策本部に姿を現さなかった。アリカンテ郡が洪水警報を発令したのは、10月29日の20時11分。この時には、お年寄りらを中心にすでに死者が出ていた。このためアリカンテ郡当局に抗議する人々は、「20:11」という時刻を染め抜いたTシャツを着ている。彼らは洪水発生以来、毎月バレンシアで抗議デモを行っている。
洪水後にスペインのペドロ・サンチェス首相と、フェリペ6世国王夫妻がパイポルタ地区の災害の現場を視察に訪れたところ、援助措置の遅れに怒った住民たちが泥を投げつけ、首相と国王夫妻はほうほうの体で現場から逃げた。被災者たちから厳しく批判されたマゾン氏は、今年11月3日に郡長の座を辞任した。
スペインのサンチェス首相は2024年11月、「被災地の復興のために約106億ユーロ(1兆9080億円、1ユーロ=180円換算、以下同じ)の援助金と融資を投入する」と約束した。
スペイン国営保険コンソーシアムは、この洪水による支払い保険金額が35億ユーロ(6300億円)に達すると予想している。同国で発生した自然災害としては過去最悪だ。
地球温暖化と気候変動は、欧州の政治、経済、社会に深い爪痕を残しつつある。
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
筆者Fabookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92
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