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新ヨーロッパ通信

【新ヨーロッパ通信】バレンシアの味覚

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 スペイン南部のバレンシア。マドリードやバルセロナほど知られていないが、今ヨーロッパ人たちの間で人気が高まっている町だ。10月下旬にこの町を歩いていると、市役所の前の広場で、あちこちから湯気がのぼっているのに気がついた。
 平たく大きなフライパンの中で、香料で黄色く染まった米がぐつぐつと煮えたぎっている。牛肉やウサギの肉も入っており、食欲をそそる。バレンシア周辺の農家の人たちと市役所の農業振興課が1年に1回催すパエリア祭りだ。パエリアは、米をサフランなどとともに炊き上げる。露店で調理されたあつあつのパエリアは、とてもおいしい。一皿、5ユーロ。日本円に直すと885円だが、現地では500円の感覚だ。
 日本で食べるご飯と違って、パエリアには水分が多く、多くの日本人は「ベチャベチャだ」と思うかもしれない。しかし、肉が多い暮らしを続けていると、米を使うパエリアはありがたい。
 会場では、エビやイカなどの海産物が入ったパエリアやキノコだけを混ぜたパエリア、野菜だけのパエリアなど、いろいろな味を楽しむことができた。パエリアはスペイン各地で食べられるが、発祥地はバレンシアだという説がある。実際、バレンシア周辺には水田が多い。例えば、バレンシアの南10キロメートルのアルブフェーラでは広大な水田が広がっており、今も稲の栽培が行われている。稲の栽培は、アラブ人が導入したという説がある。スペインには、アルブフェーラのように「アル」が付いた地名が多い。「アル」が付いた地名の語源はアラビア語であり、この地がかつてアラブ人に支配されていたことを示している。
 地中海に面したバレンシアでは、海産物もおいしい。プンティアス・デ・カラマーレは、小さなイカをオリーブ油で揚げて、塩とレモンで食べるおつまみ。ビールやワインによく合う。
 イベリコ豚の生ハムも、この地方の食生活には欠かせない。ドイツやイタリアの生ハムに比べると塩辛くなく、臭みが少ない。パンに載せるだけで、筆者にとってはごちそうである。バレンシアの巨大な中央市場には約1000件の店があるが、中でも目立つのが、イベリコ豚の大きな脚だ。蹄(ひづめ)が付いた脚が、たくさんぶら下がっている。ドングリだけを食べて、放し飼いにされた豚は最高級品とされており、布の袋に包まれて売られている。1本あたり1000ユーロ(17万7000円、1ユーロ=177円換算)の値札が付いた脚もある。スペイン人の食事への執着ぶりが感じられる。
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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