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新ヨーロッパ通信

【新ヨーロッパ通信】バレンシアの華麗なる建築

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 南スペインのバレンシアは、建築ファンにとって深い魅力をたたえた町だ。巨大な中央食料品市場の近くに、ベージュ色の石で作られた、城砦のようなゴシック様式の建物がある。塔の上に、バレンシア市の旗が誇らしげに翻っている。1483年に着工され、1533年に完成した絹織物の取引所だ。
 「契約の広間」と呼ばれるホールでは、ヤシの木を思わせる無数の石柱が天井を支えている。ここは中世から近世にかけて商人たちが商談を行った広間だといわれる。ゴシック様式の教会のように見えるが、民間の建物である点が興味深い。バレンシアが中世以来、繊維産業によって栄えたことをしのばせる。
 「海の領事の裁判所」と名付けられた広間では、天井の精緻な装飾が目を引く。この部屋は、海運や貿易に関する争いの調停が行われた場所といわれる。いわば中世・近世の商事裁判所だ。オレンジの木が植えられた中庭から建物を見上げると、精緻な浮彫りが施された壁が見える。建物全体が芸術品である。
 この場所から5分ほど歩くと、聖者や天使などの細かい浮き彫りに覆われたバレンシア大聖堂のファサード(正面の壁)が見えてくる。ここには元々古代ローマ時代の神殿があり、イスラム教徒がこの地域を支配した時代には、モスク(イスラム教の礼拝施設)があった。キリスト教徒がこの地域を奪回した後の、1262年に教会の建設が始まった。教会の一角に展示されている聖杯を見るためにこの場所を訪れる信者が絶えない。その理由は、この杯でイエス・キリストが最後の晩餐の際にワインを飲んだという伝説があるからだ。聖杯と伝えられる杯は世界に数十個あるが、バレンシアの聖杯はローマ教皇庁のお墨付きだという。
 バレンシアで興味深いのは、中世の建物ばかりではない。以前は川床だったリオ公園を海に向かって歩いていくと、巨大な魚か甲虫のように見える白いドームを持つ建物が見えてくる。2006年に完成した「ソフィア王女の芸術の殿堂」だ。オペラ・ハウスとコンサートホールを収める白亜の建物の敷地面積は約3万7000平方メートル。3億ユーロ(540億円)の建設費用が投じられた。その近くにはヘミスフェリックと呼ばれる映画館・プラネタリウムや、科学博物館、植物園なども設置されている。
 この地区の前衛主義的な建築は、旧市街に残る修道院など中世の建物と強いコントラストを見せている。過去だけではなく、未来をも見据えるスペイン人たちの気概を感じた。
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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