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新ヨーロッパ通信

【新ヨーロッパ通信】ルールなき、力の政治の時代にどう生きるか

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 2026年は、米軍によるベネズエラ攻撃、ニコラス・マドゥーロ大統領夫妻の拘束と米国への移送という思いがけない出来事で明けた。米国が他国に踏み込んで大統領を逮捕する。国際法は一体どこに行ったのかと思った人も多いだろう。
 1月中旬にはドナルド・トランプ大統領が「グリーンランドを併合する。合意が得られない場合には軍事力行使もあり得る」と発言して、欧州諸国に衝撃を与えた。
 ドイツや英国など8カ国がグリーンランドに少数の先遣部隊を派遣したところ、トランプ氏はこれらの国々に懲罰関税をかけると発言した。スイスでのダボス会議でトランプ氏は軍事力の行使と懲罰関税を撤回したが、この論争は北大西洋条約機構(NATO)の結束を揺るがせた。欧州諸国の間では、「有事に米国に頼ることはできない」という疑念が、確信に変わりつつある。
 この乱世にわれわれはどう生きるべきか。ダボス会議では、闇夜に一筋の光明を投げかけるような出来事があった。それは、1月20日にカナダのマーク・カーニー首相が行った演説だ。彼は、「現在われわれが経験していることは、世界秩序の変化ではなく断絶だ。米国が先頭に立った、ルールに基づく世界秩序は戻ってこない」と指摘した。
 彼は1978年に社会主義時代のチェコスロバキアで反体制派だったヴァーツラフ・ハベル(1989年から92年まで同国の大統領)の「無力な者の力」というエッセーを引用し、「力がない者にできること、それは、体制のうそに同調せずに拒否することだ。今や、うそをうそと言うべき時がやってきた」と語った。
 その上でカーニー首相は、中規模国は連帯するべきだと提唱する。「大国が法律や規則を守らず、他の国々を力や金によって従属させようとしている世界で、カナダのような中規模国がするべきことは、外交関係を多角化することだ。各国がそれぞれ要塞を築くよりは、協力した方が良い。われわれの行動を導く指針は、人権擁護、自由、持続可能性などの価値観に基づく現実主義だ。カナダと一緒に歩みたいと思う国は歓迎する」と述べた。
 演説後、聴衆は席から立ち上がって拍手を送った。ネット上には、「ここ数年で最も感銘を受けた演説だ。カーニー氏は、ポスト米国時代の新しい価値共同体を率いるべき指導者だ」という言葉もあった。深い思想性に支えられたこの演説は、カーニー・ドクトリンとして歴史に残るだろう。彼の指摘は、米国に大きく依存するわれわれ日本人にとっても、重要な示唆を含んでいる。
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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