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新ヨーロッパ通信

【新ヨーロッパ通信】経済乱世の時代にささやかな朗報(下)

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 米国のトランプ大統領が関税という「棍棒」を振り回す時代に、一筋の光明のようなニュースがあった。1月17日、EUは、南米南部共同市場(メルコスール)を構成するブラジル、アルゼンチン、パラグアイ、ウルグアイの4カ国との間で、世界最大の自由貿易圏の構築に関する合意書に調印したのだ。EUと南米諸国は人口7億人の経済圏で、輸入品の91%について段階的に関税を撤廃する。
 パラグアイで調印式に出席した欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、「この合意は、双方に経済的・地政学的な恩恵をもたらすパートナーシップを築き、新たな雇用、成長をもたらす。われわれは競争ではなく協力を、分断よりもパートナーシップを目指す」と述べた。欧州委員会は、「EU企業は関税費用を毎年40億ユーロ(7200億円、1ユーロ=180円換算、以下、同じ)節約できる。EUからメルコスールへの年間輸出額は現在に比べて39%増える」と説明した。
 メルコスール加盟国にとって、EUとの貿易額は、中国との貿易額に次いで二番目に多い。2024年のEUのメルコスールへの財の輸出額は約552億ユーロ(9兆9360億円)だった。EUのメルコスールからの財の輸入額は、約560億ユーロ(10兆800億円)となった。24年の両地域の間の貿易収支はほぼ均衡しており、一方に偏った巨額の貿易黒字・赤字はない。
 両地域の輸出品は競合せず、補完しあう。24年のEUのメルコスールへの輸出額の41%が自動車、機械や電機製品、28%が化学製品だった。一方、24年のメルコスールからの対EU輸出額の33%が食料品と家畜、24%が鉱産資源だった。
 欧州で最も大きな恩恵を受けるのは、ドイツの製造業界だ。ドイツ企業は年間4億から5億ユーロ(720億~900億円)の関税を節約できると予想されている。
 南米諸国は関税率が比較的高かったために、ドイツ車などの輸入量が大きく伸びなかった。南米諸国はEUからの自動車には最高35%、自動車部品には14~18%、機械には14~20%、化学製品には18%の関税をかけていた。ドイツ自動車工業会(VDA)によると、昨年上半期にドイツからメルコスールへ輸出された乗用車の台数は1万4600台にとどまっていた。
 このためVDAとドイツ機械工業会は、合意書調印について「歴史的なマイルストーンだ」と歓迎する声明を発表した。
 トランプ政権の関税政策により、世界貿易機関(WTO)ルールに基づく自由貿易体制が空洞化されている今日、EUとメルコスールの合意は、「われわれは自由貿易の原則をあきらめない」という意思表示だといえる。
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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