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うず

【うず】「レベル5」の世界

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 今、政界に新風を吹き込んでいるのが「チームみらい」党首の安野貴博氏だ。2024年の東京都知事選に新人候補として挑み、健闘すると、翌年に政治団体を立ち上げ、参院選、衆院選と立て続けに議席を獲得。「デジタル民主主義」を旗印にした未来志向の政策や、分断を煽らず相手を貶めない姿勢などが、メディアに映し出される風貌や話し振りと相まって、既存政党にはない期待感を生み、幅広い支持につながったとみている。
 安野氏は参議院議員、AIエンジニア、起業家と並んでSF作家の肩書を持つ。デビュー長編『サーキット・スイッチャー』は22年に刊行された、自動運転車が普及する近未来の日本を舞台にした小説だ。自動運転アルゴリズムを開発する会社の社長が、搭乗中の車両で謎の人物に拘束される場面から物語は始まり、カージャック事件を軸に登場人物たちの思惑が交錯しながら緊張感ある展開が続く。
 本作で興味深いのは、「レベル5」が実現した自動運転社会の描写だ。運転席のない完全自動運転車が人々の移動ニーズに応えて街を行き交う。「移動ヨガ教室」「移動レストラン」など新たなビジネスが生まれ、自動運転車両に対応した自動車メーカーのオペレーションや交通インフラの変化も垣間見える。「自動運転失業」による社会不安もリアルに描かれており、執筆時点での安野氏の「空想」なのか、現実的な「想定」なのか、あれこれ考えながら読み進めるのも楽しい。
 3月5日、安野氏は日本外国特派員協会の記者会見で「5年以内に日本のどこへでも自動運転で行ける社会を目指す」と語ったという。これから「レベル4」(一定条件下での自動運転)を進めていく日本で「レベル5」の世界はまだ先、と考えていた認識を改める必要があるかもしれない。たとえ技術的に可能でも乗り越えるべき課題は多々あるが、この取り組みが結実した後、日本がどう変わるのか、そして自動運転時代の保険の役割がどう変化するのか、注視したい。(はのは)

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